月が綺麗ですね。
これからのために
「俺の髪も瞳も、ちょっと周りと違うだろ」
「う、ん…」
椎名くんの髪は、淡い栗色。
それに合わせて、長いまつ毛も、眉も、少し色が薄い。
瞳も、榛色。
「生まれつきなんだ。昔から、染めてると思われることが多かった」
「生まれつき、色素が薄いってこと?」
驚いた。
それにしても薄い。
私もずっと染めてるものだと思っていたし、瞳はカラコンでも入れているのかと思っていた。
それに顔立ちも相まって、どことなくチャラいというか、派手だなと思っていた。
「…子どもの頃って、自分とは違うものを嫌がって、排除しようとするだろ?」
「うん…」
「俺は、小学校の時いじめられた。みんなと違うからな」
空を見つめる榛色の2つの瞳は、昔を思い出すように細められた。
「だから俺は、強くなることにした」
「強く……」
「そう、髪も瞳も気にならないくらい、強くなることを決めた。…まず始めたのが勉強。塾に通って、基礎を固めた。そしたら一気に成績が伸びた」
椎名くんは、1年生の時からその順位を譲っていない。
不動の1位。
それは、小学生の時からなのかも知れない。
「次に、バスケのクラブチームに入った。全国大会に行くような、強豪チーム。……そしたら、運動能力もぐんぐん伸びた」
椎名くんの綺麗なフォームも俊敏さも、昔からの積み重ねだったんだね。
確かにあの時、素人から見ても、技術の高さとプライドが見えた。
「いつの間にか、近くにいるヤツは、誰も俺と並べなくなってたんだ」
椎名くんは、寂しそうに目を伏せた。
それは、あの時見た背中と酷く似ていた。
「基礎を固めたら、どんな数式でも英文でも理解できるようになった。勉強はもう、努力しなくても出来るようになってた。……それでもバスケは、バスケだけは、俺よりも全然強いヤツが全国にいて、それにはやりがいを感じてたんだ」
「今は……やってないんだよね?」
「あぁ、辞めた」
ここに、今の彼を作った“何か”がある。
直感的にそう感じた。