月が綺麗ですね。
「……理由、聞いてもいい?」
見つめたら、揺れる榛色も私を写した。
ここまで来たら、どんなことでも受け止める。
お願い、教えて……。
「わかった」
椎名くんは、軽く息を吸うと話し始めた。
……はずだった。
「―――っ!誰か来る…っ」
「えっ……」
椎名くんの過去を聞こうと、気を引き締めていた私は、気づいたらタンクの裏に引っ張られていた。
視界は真っ暗で、自分以外の温もりに包まれていることに気づいた。
爽やかな香りが鼻を掠める。
って、これっ、抱きしめられてる…!?
そのすぐ後、
バン!
扉が勢いよく開けられる音が聞こえて、バタバタと複数の足音が耳に届いた。
「ちっ、ここじゃねぇのかよ!」
「リナ、ここ以外にねぇの?」
「……北校舎の空き教室かも」
「次そこ行くよ!」
バン!
来たときと同じように、扉は乱暴に閉められて、一緒に足音も去っていった。
女子っぽい声ではあったけれど、言葉使いが荒すぎて、一瞬性別を迷う。
リナ、というのは確か……そう、椎名くんの取り巻きの一人。
彼と同じような髪色で、胸まで伸びたその髪を緩く巻いている女子。
って、マイペースに思い出してる場合じゃなかった…!!
体制はずっとそのまま、思い出したら、心臓がおかしくなりそうなスピードで動いている。
なかなか椎名くんは私を離そうとしない。
全身が心臓のように脈打つような感覚。
もう、心臓もちそうにないよ……っ
「あの時も……俺が誰かのモノだったら、悠華(ゆうか)先輩は俺を側に置かなかったのかな……」
「しい、なくん…?」
ドクドクと、激しく打ち付ける鼓動を感じながら、名前を呼ぶと。
そっと私を開放してくれた。
「ぁ、悪ぃ…ちょっと、フラッシュバック」
「大丈夫、 私も、たまにあるから…」
「そうか…思わぬ邪魔が入ったな、続けるぞ」
「うん」