月が綺麗ですね。
――――中学はバスケの強豪校に入ったんだ。
1年でスタメンに選ばれて、インターハイでは決勝点を決めて、ベスト16に貢献した。
強いヤツばっかで、毎日が楽しかったよ。
そして中2の時、初めて好きな人が出来たんだ。
でも、彼氏になりたいなんて思ってもいなかった。
だって、
『ひろっ!帰ろっ』
『おう』
俺の好きな人には、既に彼氏がいたから。
山川 悠華(やまかわ ゆうか)先輩、バスケ部のマネージャーで、俺の好きな人。
そしてその彼氏で、バスケ部のキャプテン涌谷 尋(わくや ひろ)先輩。
お似合いの美男美女カップルで有名な二人。
最初から可能性なんてゼロだった。
だから、遠くから眺めるだけで満足して、バスケに打ち込んでいた。
でも、ある日体育館で一人泣いている彼女を見た時から、歯車は狂い始めた。
声をかけると、大丈夫と気丈に答える彼女に、聞いてしまった。
今思えば、絶対に聞いてはいけなかった。
『涌谷先輩と、何かあったんですか…?』
『っ………』
大きな目と、長いまつ毛にたくさんの涙を乗せた彼女は、
『もうっ、耐えられない…っ!』
『っ…!?』
俺の腕の中に飛び込んできた。
『助けて…っ!!』
その悲痛な叫びに、震える肩に、俺は、彼女を突き放すことが出来なくなってしまった。
『何が、あったん、ですか…?』
『ひろっ、浮気…してるっ』
『え……?』
あんなに、仲良さそうに一緒に帰っていたのに?
信じられない、何に対しても誠実な涌谷先輩が、そんな……
『最近、冷たいな…って、思ってたのっ……用事があるって、一緒に帰ることも、少なくなっててね…っ』
言葉に詰まりながら、先輩は説明してくれた。
用事があると言われたその後、帰るフリをして、こっそり跡を付けた先輩は、女の人と歩く涌谷先輩を見てしまったらしい。
女の人は、時折親しげに涌谷先輩の肩を叩いたりと、他人行儀ではなかった。
……確かに、浮気の場面に遭遇したようにも思える。
でも、
『何かの間違いじゃ?』
『違うっ!!だって、ひろ、普段からあんなに女の子と仲良くしないもんっ!!!』
『そう、ですか……』
俺は、涌谷先輩を信じたかった。
でも、悠華先輩をすきな俺としては、彼女を放っておけなかった。
『私も…浮気する』
『は…?』
『ねぇ、椎名くん…フリでもいいの。私の彼氏になって…?』
俺に縋ってくる細い腕を振りほどくことなんて、出来なかった。
『っ……は、い』