月が綺麗ですね。
そのとき、私の中で何かが切れた。
「いつか…?ねぇ椎名くん、いつかって一体いつ?いつまでもそこにいるなんて、誰が言ったの?後悔しても遅いんだよ…!今ならまだ間に合うじゃん!ねぇ椎名くん!」
椎名くんの両腕を掴んでゆすった。
私はもう、言えないんだよ。
嬉しかったことも、悲しかったことも、寂しいという気持ちも、墓前で独り言のように呟くしか出来ない。
どんなに願っても懐かしい温もりは帰ってこない。
もう目を合わせることも、触れることも出来ない。
目で必死に椎名くんに伝えた。
今という時間は二度と戻らない。
いつかなんて、曖昧なことを言って逃げていたら、絶対に後悔する。
「私は後悔してほしくない…!」
「…っごめん、俺……お前にすっげぇ酷いこと言った」
瞳には、既に後悔が宿っていて。
もう大丈夫だと思った。
「俺、今日帰ったらちゃんと説明する。俺の汚いところも、辛かったことも、全部話す」
「椎名くんならできる、大丈夫だよ」
涙の跡を残した頬を上げたら、ふんわりと逞しい腕に包まれた。
「ありがとう」
「っ……」
さっきとは違う、優しい優しい抱擁に、何も言えなくなってしまって、ただ首を横に振った。
自分以外の体温に、心臓が反応し始める。
私はただ、背中を押しただけ。
その先は椎名くん次第だよ。
冷静にそう思いながらも、吐息が耳にかかって、クラクラしてきた。
「お前がいなかったら、一生、家族とも過去とも向き合えなかった」
「そんな大それたことしてないよ…」
「いや、それでも……―――ありがとう」
体を離してそっと上を見たら、至近距離で極上の笑顔を見せる椎名くんに、今度こそ倒れそうになった。