月が綺麗ですね。
タンクの裏から出てきた私たちは、何もすることがなく、ただフェンスに、もたれてぼんやり空を見上げていた。
梅雨入り前の、夏に近づく日差しと、ゆっくりゆっくり動く雲は、両親のことを思い出させた。
二人が亡くなった日は、夏なのに少しだけ暑さが和らいだ日だった。
「私ね……」
「ん?」
「お父さんが死んじゃったとき、お父さんのお願いに頷かなかったこと、すっごく後悔した。
最後のお願いだったのに、お父さん、不安なまま逝っちゃったのかな…って。
だから、お母さんがガンだって分かったとき、お願いは全部聞いて、頷いてあげようって思ったの。
…確かに、ほとんど聞いてあげることはできた。
でもね、今度は私が、伝えたいことを伝えられなかった」
結局、どうしても後悔は残る。
「………」
椎名くんは、私の方をしっかり見てくれている。
でも私は、少しでも動いだら涙がこぼれそうで、ずっと空を見上げたまま。
生暖かい風がやさしく頬を撫でた。
「だから私、誰とでもちゃんと向き合うことにした。
例え後悔は残っても、少しでも、ギリギリまでそれを失くすために……だから私は、猪突猛進、超楽観的、興味津々の人間になったの」
堪え切れず目尻から零れた涙を誤魔化すように、精一杯の笑顔を椎名くんに向けた。
「……その四字熟語の羅列はなんだ?」
「雪絵さんが私を表して言った四字熟語!ピッタリでしょ??」
あははっと笑って見せた。
彼は、ふっと笑う。
「ピッタリだな、そのおばさんには座布団一枚やりてぇとこだけど……そのおかげで俺は迷惑してんだからな」
いたずらっ子の笑みを浮かべた椎名くんの手が伸びきた。
そして、な、のところで鼻を摘まれた。
酸素の通り道の一つを塞がれて息苦しい。