月が綺麗ですね。
満月
握った手
―――…あれから3日後、世間は梅雨を迎えた。
椎名くんの言葉たちは、私の期待も望みも一瞬で砕いた。
あのあと、どうやって、何をして、家に帰ったのかよく覚えていないのだ。
彼のことだから、私のためにそう言ったのかも知れないと、そう思いたい気持ちもあるけれど…本当に、彼が私からの気持ちを拒んでいたとしたら、
もう以前のように告白することは出来ない。
あのときの声色が、表情が、私を拒絶する言葉が、蘇ってくる。
今までの「嫌そうな顔」ではなくて、私に対して「無関心な顔」だった。
もう海苔弁をせがまれることも、屋上でふざけ合うことも、あの嫌そうな顔を見ることも無い。
そう思うと、思い出も邪魔になって、学校にも行きたくなくなった。
幸い3日前は金曜日で、雪絵さんの前では土日は平気な顔でいられたけれど、今日は月曜日。
さすがに、体調も悪くないのに休みたいだなんて、何て理由を捻り出したらいいのかわからない……
雪絵さんに「何かあったの?」なんて聞かれたら最後、泣かない自信はない。
それに、こんな目元のクマが幽霊みたいな、酷い顔。
瑠璃子に見せたら椎名くんがただじゃすまないだろうし…
しかも、あの子は空手の黒帯持ちだから、割と冗談ではなかったりする……
とにかく、色んな人に心配をかけてしまうことが予想されるので、望月 環那、本日ばかりは何も聞かずに休ませて欲しいのです。
「環那!何回言ったら起きのんよ!!」
「きゃう!!!」
私の心の主張むなしく、いつまでもベッドを降りない私を見かねた雪絵さんに布団をはぐられた。
顔を見られたくないので、雪絵さんに背を向けて、ダンゴムシのように丸まった。
……もうダンゴムシにでもなりたい。
「きゃうっじゃない!学校遅刻するでしょ!!」
「き、今日は…休みたいなぁ…なんて、あはは」
ダンゴムシのまま意思を伝えてみると、雪絵さんの方の空気が少し変わったような気がした。
「…具合いでも悪いの?」
「…ちょっと、頭痛くてさ」
寝不足なのか何なのか、頭がガンガンするので、あながち間違いではない…!
これなら流石の雪絵さんも…!!
「風邪かも知れないわね、ちょっとおでこ出しなさい」
え、
「どうしたの、いつまでもイモムシみたいに丸まっていないで見せてよ」
「イモムシじゃなくてダンゴムシだもん!」
ダンゴムシの方がまだ可愛いじゃん!!!
一緒にされては困る!!!
「そんなこだわり誰も聞いてないわ!いいから早くして!」
そうだよ!ダンゴムシとかイモムシとかじゃなくて!
顔見せたくないんだってー!!
「いいから見せなさいっ!!」
「絶対無理っ!!」
雪絵さん、すごいイライラしてる。
朝から怒らせてごめんね。
でも見せたくないものは見せたくない!
「……はぁ、もう分かったわよ」
「っ……」
雪絵さんは呆れたように部屋から出ていった。本当に、申し訳ない。
静かになった部屋で、もう一度布団を被ってダンゴムシになった。
気を抜いたら泣きそうだった。
心配をかけまいとして、頑なに隠したけれど、結局は不快にさせている。
心配をかけたくないのに、最後まで平気でいられない私を嫌いになりそうで、ただ悲しかった。