月が綺麗ですね。
椎名くんの指が、私の頬に触れている。
もう訳がわからない。
「なぁ、」
「、なに…?」
声が震えて、上手く出せない。
自分から声をかけてきたくせに、椎名くんはなかなか続きを言わない。
体中の感覚が、神経の全てが、目の前の彼に注がれている。
静寂が重くて、もう、息が止まりそう。
椎名くんの気持ちは、一体どこにあるんだろう…?
―――――ヴーーッ、ヴーーッ、、
「「っ!!」」
スマホが頭のすぐ近くで私を呼んだ、その瞬間、張り詰めた空気が放流されて、一気に流れ出していった。
息が、できる。
思い出したように雨音も部屋に響き始めた。
そして椎名くんは素早く私から離れていく。
スマホを確認すると、瑠璃子からのメッセージだった。
〈見舞いに椎名行かせたけど、ちゃんと着いた?
椎名なりに思うところがあるみたいだから、良かったら聞いてあげてよ〉
「椎名く、」
「リビングのテーブルに、置いといたから」
それだけ言って私の部屋から出ていく彼を追いかけた。
リビングのソファにかけてあったブレザーを持つと、迷いなく抜けていく。
「ねぇ、待って…!」
玄関で靴を履く間際に、腕を掴んだ。
彼は立ち止まったまま何も言わない。
「ねぇなんで、私、どうしたら…」
考えが全然まとまらない。
体が重くて、目の前が霞む。
言葉の組み立て方も分からなくなりそうだけど、とにかく必死だった。
この、どうしようもない気持ちに、答えが欲しい。
「………ごめん、」
―――謝罪なんて、欲しくなかった。
途端に世界は闇に包まれて、そこで意識を手放した。