月が綺麗ですね。




こうして、私たちの負けられない闘いが始まった。


告白って…こんな殺伐とした物だったっけ……?


そんな思いは、この時微塵も浮かばなかった。

たぶん、二人とも馬鹿だったんだと思う。




兎にも角にも、私は最初の一撃として、手紙での告白を思いついた。

ある意味で衝撃的な告白現場からの帰り道、文房具屋さんで便箋を選ぶことにした。

何がいいかな~と、選んでいた。

そして


…………面白いって、なに。


とても簡単なことに今更気づく。


面白いって言ったって、「滑稽」もあるし、「興味深い」もある。


この場合は……後者なのかしら?


さすがに、麗らかな女子高生にギャグセンスを求められても困るし…え、それが目的?

タチ悪いぞ、椎名朔……


悩んだ挙句、和紙素材の空色の便箋に決めた。


10分ほど歩いて、家に到着。


「買ったはいいけど、内容が問題だよね…」


勉強机に肘をつき、シャーペンを鼻下で挟む。

ラブレターだから……好きなところとか、だよね。

でもそれは、一般的なラブレターの話。

これから私が書くのは、"面白い"ラブレター。


一体椎名くんは、何が目的でこんなこと言ってるんだろ……


一目惚れの私は、あまり彼のことを知らない。

一目惚れのきっかけ、それは別に大したものではなく、有りがちと言えば、有りがちなシチュエーション。


1年の時の球技大会、男子のバスケの部の決勝戦。


1年対3年というイレギュラーな事態。

それでも椎名くんは、誰よりも輝いていていた。

誰よりも速く、誰よりも正確に、ただゴールを目指す強い眼差し。

でも私は、その姿に心を奪われたわけじゃない。

決勝戦の結果は、僅差で椎名くんのチームの敗北。


その試合後。

コートを後にする時に、他の選手たちは、少し疲れた顔を見せながら、友達と楽しそうに出て行ったのに、椎名くんだけは、少しの間ゴールを見つめてから、出て行った。

表情はよく分からなかったけど、その背中は、悔しさよりも、『楽しかった』って言っていたような気がした。

祭りの後のように、少し寂しそうな。


その背中が、私の脳裏に染み付いて取れなくなった。


それから、椎名くんの名前を何処かで聞くうちに振り返ったり。

目で追う自分に気がついた。


完璧な、一目惚れだった。




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