シチリアーノは泡沫に
潮風に溶けゆく音色
夕方涼しくなって客足が減ったころ、皐さんが居なくなっていることに気付いた。
結局彼女はたまに飲み物を出すくらいで、殆んどあの窓際の席に座っていた。
豊さんに怒鳴られる僕を、時折愉快そうに見ながら。
その視線にも慣れて作業に没頭している間に、彼女は風のように消えていた。
「皐さんはどこに行ったんですか?」
無性に彼女のことが気になって、祐子さんに尋ねた。
すると、祐子さんはにやにや不気味に笑いながら「あそこよ」と言って、先ほど皐さんが座っていた席の窓の向こうを指差した。
「崖の上ですか?」
砂浜の向こう、緩やかな坂を登った先に背の低い緑の草が生い茂る崖があった。
所々に丸っこい岩が転がっている。