シチリアーノは泡沫に
こんなに側に来るつもりなかったのに、
と引き換えそうか声を掛けようか迷っていると、皐さんは銀色の棒を持ち上げた。


あれは、たしか楽器だ。
前に吹奏楽部に入っている妹に、横笛だと言ったらバカにされた記憶がある。


なにか果物みたいな名前だったよな。
ジューシーでフルーティな……

フルートだ!


皐さんは夕日の黄色い粒が撒かれた海に向かって、音を作り始めた。

音楽に疎い僕には、なんの曲を吹いているのか分からなかった。

ただそれは波の伴奏に合わせたようなゆったりした旋律で、美しく、悲しく聞こえた。



青い海の向ここうに思いを馳せて、彼女が唄っているかのようだった。



不意に、光がフルートに反射して僕は目を閉じた。

そして強い風が吹いて、その音色が途切れた。



彼女が、風にさらわれてしまうかと思った。


気付いたら僕は駆け出して、彼女に後ろから抱きついていた。
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