シチリアーノは泡沫に
夕刻のタイムスリップ
「そういえば、何で初対面だったのに僕のこと気付いたの?」
ナンパしていると誤解された時だ。
不思議に思ったので皐さんが演奏を終えて楽器をケースにしまっているとき、僕は尋ねてみた。
「知ってたの。私タイムスリップできるから」
「はぁ?」
気の抜けたような僕の返事に、彼女は不満そうな顔をした。
「だから、五郎が来るって聞いてどんなやつか気になったから、タイムスリップして見てきたのよ」
……これは、ジョークってやつ?
笑うべき?
ツッコンだ方がいいかな。
「なんでやねんっ!」
「……あのさぁ、もっと捻りがないわけ?」
あきれたように皐さんは言った。
「僕にはそんな頭ないよ……」
なんだかショックで僕は項垂れた。
この際お笑いでもいいからなにかカリスマ性が欲しい。
「言われてみれば、そうだ」
皐さんは真面目腐った様子でそう言ったあと、からからとした声で小気味良く笑った。