シチリアーノは泡沫に
「五郎、揺れないように歩いて」

そんなめちゃくちゃな……

僕は今、背中に皐さんを抱えながら坂を下っている。
慎重にゆっくり歩いているものだから、足に当たる雑草がむず痒くて仕方ない。


「あのぅ、危ないから降りた方がいいんじゃない?」


皐さんは不憫な僕の言葉を無視して、鼻唄を歌い出した。


耳元で響いてくすぐったい。

しかも皐さんと密着してて……

女性に慣れていない僕にはちょっと刺激が強い。
だから嫌だったんだ。


楽器を片付け終わってそろそろ帰ろうと立ち上がったら、皐さんが「疲れた。歩けないからおぶって」と言い出したんだ。

自己中女めと思いながらも僕は「力弱いから」とご丁寧にお断りしたのに「そう、じゃあ五郎に襲われたってお母さんに言おうっと」と脅された。


それだけは避けたい。


「五郎っ」

僕が自分と戦いながら歩いていると皐さんの声が急に聞こえて、伸ばされたしなやかな腕が見えた。


「うわ」
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