シチリアーノは泡沫に
僕は熱くなった顔を隠そうと「暑いな」と言いながらわざとらしく顔を扇いだ。

僕は美島夫婦の追求に始終どきどきしていた。

実際には何もしていないけれど、僕にそんな気持ちがないと言ったら嘘になる。
僕の手は皐に触れようとしてしまうし、僕の視線は彼女に釘付けになる。

彼女を見る度、胸がぎゅっと締め付けられてしまう。


もやもやと渦巻く思いを落ち着かせようと、深く息を吸い込んだ。

夏も終わりに近づくころの夜の空気は思ったより冷たく、秋の湿った落ち葉のような匂いを心なしか含んでいた。




僕が自分の気持ちを恋だと知ったのは、大切な時間を失った後だった。


どうして夏は、いつも気付かない間に過ぎ去ってしまうのだろう。

僕は鈍感だから、言葉で伝えてもらわないと分からなかったんだ。
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