シチリアーノは泡沫に
雨に濡れた演奏会
次の日はあいにくの雨だった。
細い雨が時折激しくなって、海面に打ち付けられている。
小石がこぼれ落ちるような音がした。

さつき荘の食堂に客は一人もいない。


「パパー、どっか行こうよ」

不意に小さな男の子の声が聞こえて来た。

「参ったなあ。この雨じゃ今日は無理だ」


あれは、さつき荘に泊まっている家族連れの客だ。
子供の父親と思われる人が入り口に立って外を覗いていた。

しばらく男の子は不満そうにしていたが、諦めたのか父親に手を引かれて客室へと続く階段を上っていった。


この辺りは街中じゃないから海以外に行くところが少ない。
さつき荘の宿泊客たちはそれぞれ部屋にこもっていた。

僕も今日は暇だな。


僕は、いつものようにお菓子を広げて窓際の席に座る皐のもとへ行った。

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