シチリアーノは泡沫に
最後の曲は、僕が初めて皐の音色を聴いたときのものだった。


「シチリアーノかね」

瞳を閉じて心地良さそうに聴いていたおじいさんが、ポツリと呟いた。

「あなたとよく行っていた喫茶店でいつも流れてたわよね。チェロの響きが美しくて…懐かしいわぁ」

おじいさんの声に重ねるように、優しげにおばあさんが言った。

「フルートでもすごく綺麗ね」

「そうだなぁ」


なるほど、これはシチリアーノという曲らしい。

曲が悲しいのだろうか、それとも皐が悲しんでいるのだろうか。

僕には、皐が泣きそうな顔をしているように見えた。

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