シチリアーノは泡沫に
……え。
なに?今の音……何かこう、風の音とは違うような。
すー、すー……
僕の背中は張り詰めて、額からは不快な汗が滲んできた。
確かに、何変な物音がする。奥の方の席からだ。
聞かなかったことにして、布団に戻るか?よし、戻ろう。
自問自答で即答した。
ぐるぐると頭が混乱しながらも、僕が食堂に背を向けた時だ。
「ま…て…」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな途切れ途切れの声がした。
……え。
僕に言った?
心臓が活性化してフル稼働する。何か見えない力に引かれるように、僕の足は勝手に進んだ。
一番奥の、窓際の席に何かいる。
その席の2、3歩手前まで近づいたとき、薄まった雲の後ろで月が鈍色に光って、それを白く浮かばせた。
「…お…い…」
「ひっ!!」
「モ…ヤシ…」
鈴の転がるような声で彼女は言った。
それは、僕の小学校時代のあだ名だった。