シチリアーノは泡沫に
テーブルに突っ伏して、皐が寝ている。僕が聞いていたのは皐の寝息だった。

寝てても僕をビビらすんだな……

細くため息をついて、僕は皐の顔が見えるように席に座った。

ただでさえ白い肌が薄い月明かりを浴びて透き通っているようで。

人形みたいだと思った。

艶のある長い睫毛が小さな影を作っていて、時々揺れるのに見入ってしまう。

しばらく眺めていると、皐の右手が少し動いたのが目に入って、僕は自然とその手を握っていた。

こんなところで眠っていたからか、ほんのり冷たい。
ちゃんと布団で寝なきゃ。

僕が皐の肩を軽く揺すると、彼女はゆっくりと頭をもたげて「ん…?だれ…」と掠れた声で呟いた。

「なんだ、五郎か…」

なんだとは何だ。

「皐、ちょっと起きて。布団で寝なよ」

「うん…」

返事はするものの、皐はなかなか動かない。

かくかくと頭を揺らして、もうほとんど寝たままの状態だ。

こんな寝ぼけている皐を僕がどうできようか……。

先程よりも盛大にため息をついて、僕はまた席に落ち着いた。

仕方ない、何か掛けるものを持ってくるか。

そう思って立ち上がると、上着の裾を引っ張られて勢いよく椅子に尻を打ち付けた。

「痛!ちょ、皐」
< 38 / 40 >

この作品をシェア

pagetop