シチリアーノは泡沫に
またこの場所で
凪いだ海に一艘のボードが浮かぶ。
上に座り込む少女。
さつき……?
まるで絵画のように静止したまま、姿が小さくなっていく。
え、行っちゃうの?
「――」
皐、まって。と呼んだつもりだった。
でも僕には自分の声は聞こえない。
エメラルドに光る海原に、皐の白い肌が小さく写る。
彼女は黒い髪を垂らして、静かに前だけ見ていた。
――こっちに気付いて、皐!
「――」
僕は何度も叫ぶ。
皐は、振り向かない。
皐の姿が手に乗るくらい小さくなったとき、それが聞こえた。
――シチリアーノ
ああ、僕の声は皐に届いていなかったんだ。