シチリアーノは泡沫に
「おいゴロすけてめえ紅生姜入れ忘れてんぞ!!殴られてえのか!?」

「ひぃっすすいません!!」


「ゴロすけぇ!!なにもたもたしてやがる!?」

「申し訳ございませんー!!」



鬼だ。
鬼以外の何者でもない。

そう言えばここに来る前に母さんが
「豊さんの時折見せる厳しさがいいのよぉ」
なんて語尾にハートマークを付けながら言っていたのを思い出した。

あの時の父さんの焦った顔、面白かったな。



「ボーっとしてんじゃねえぞ……」

後ろから聞こえた低い声に体が凍り付く。


「手を動かせ。それともおめえの手ぇは不要か?」


ひぃぃぃ!!


僕の後ろで包丁を手に持ち、あやしく笑う豊さんの姿が容易に想像できた。


母さん、こんな厳しさにときめくなんてどんだけマゾヒストなんだよ。

いやでも僕に対しては加虐心を煽られるようだし、とんだ迷惑……はっ!まさか、バイト先にここを選んだのも母さんの陰謀か?!
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