あしたのうた
怖いのは、死ぬことよりも、約束が途切れてしまうこと。
まだ、ずっとずっと、ずっと一緒に、という約束は生きているだろうか。もし、紬の中で生きていなかったとしても、俺の中にはちゃんと存在している、その何よりも大切な約束。それがなくなってしまうことが、その約束がまた途切れてしまうことが。俺にとって、何よりも怖いことだ。
また何年も何十年も何百年もしたら、再び巡り逢えるだろうということは分かる。今までだってそうだったから。とは言っても、それまで何度もなんども別れた記憶はなくなることはなく、寧ろ思い返す度に鮮明に、残酷なまでに現実を見せてくる。
何度体験したって、決して慣れることはない感覚、感情。その回数を少しでも減らすことができたら。いつまで続くのか分からない繰り返しに、そんなこと考えたって仕方ないのかも知れないけれど、それでも。
もう、若いうちに、十分一緒に過ごしたと言えないうちに別れるのは、どうしても嫌だった。
「……ねえ、約束は、生きてる?」
まるで考えを見透かしたような紬の言葉に、驚きと、安心と。生きてるよ、と返した後の小さな笑い声に、幸せと、愛おしさと。
「ずっとずっと、ずっと一緒に」
これから先も。何度だって。
「────だから、ねえ、紬」
その為に、一つだけ、お願いがある。
「なあに、渉」
身体を離して、きちんと目を合わせた紬に、今から告げる言葉を思い返して少しの躊躇。けれど、これは、俺なりのけじめ。お互いにこれ以上傷つかない為に、決めたこと。
「全部思い出すまで、付き合うのは待ってくれませんか」
別れよう、そう言うのは、思った以上に苦しくて辛かった。そしてきっと、言われる方も。
別れるつもりがあるわけではない。けれど、なにを思い出していないのか分からない以上、こんなことがないと言い切れる補償もない。
何より、別れようなんて、もう自分が言いたくない。
だから、ちゃんと全て思い出すまでは。知識ではなく『記憶』として、思い出すまでは。
「……わか、った」
一拍遅れて、紬が素直に頷いた。ごめん、なんて言葉は言わない、きっと紬は謝るようなことじゃないと言ってくるから。
だからね、紬。ちゃんと思い出したときは、思い出せたときは、一番に紬に告白するよ。
ぐりぐりと頭を押し付けてくる紬の髪の毛を、そっと撫でる。いつもはするすると抜ける髪の毛が今日は乱れていて、相当走り回って探してくれたのだと言うことを悟る。その事実が申し訳ない反面、嬉しいような気もして。もう無茶なことはできないな、と肝に銘じた。
「……っあ、そうだ」
と。ふと何かを思い出したらしい紬が、動きを止めた。どうしたの、と腕の中に問いかけると、あのね、と少し言いづらそうに俺の顔を見上げてくる。