あしたのうた


「……幸せになってほしい」

「……、そうだね」


幸せになってほしいと願っているのは、私だけではない。


「きっとこの繰り返しは、中大兄皇子と鏡王女を幸せにするための繰り返しだ」


渉も同じことを考えていたんだと思いながら、こくりと頷いた。


お姉ちゃんと、沢山話をしよう。家に帰ったらまず、今日の事を話して、今が幸せか訊いてみるのもいい。今だけの幸せではなくて、この先も続くものを探していかなければならないけれど、それはおいおいでも大丈夫。


「私、お姉ちゃんともっと話してみるよ」

「……うん。俺も、兄貴ともっと話してみる」


信じる『未来』が、変わる。


今までは、私と彼二人だけだった。これからは、二人増えることになる。私と彼と、姉と兄の四人の『未来』を、信じることになる。


確かに、身近だった存在が同じ立場で生まれ変わっているのに、過去の話ができないのは苦しいし、辛い。それでも、幸せになってほしい、幸せにしたい。それが私たちの役目なら、そのくらいの苦しさはなんてことはない。私は一人なんかではないから、渉だっているから。


どんな未来だって、信じていればいつかは私の望む『未来』になる。


「ねえ、今日は帰ろう?」


帰って、兄姉と話をして。話ができない苦しさではなく、また同じ時間を過ごすことができるこれからを噛みしめて。


違う方向に進もうとしていたら、今度は私たちが手助けをすればいい。助けてもらった分を、今度は私たちが返す番だ。


「そうだね」


同意した渉が、立ち上がって手を差し出してくる。その手を握って私も立ち上がると、二人で並んで駅に向かう。


意外と話していた時間は長かったらしく、自分が覚えている店を出た時間から優に一時間は経っていた。どちらからともなく手を繋いだまま、送ってくれるという渉に甘えて同じ駅で降りる。家の前まで来てくれた渉と向き合って立つと、私はありがとう、と一言落とした。


「なんか、昨日のこと思い出すね」

「あー、まだ昨日なんだね。もっと昔のような気もする」

「それは分かる。俺たち、短期間に色々あり過ぎなんだよ」

「それもそうだ」


同意して笑うと、そっと頬を撫でられた。その手に自分の手を重ねると、紬、と紡がれた名前にうんと頷く。ぐしゃぐしゃと頭を掻き混ぜられて一歩離れると、楽しそうに笑い声をあげた渉につられた私も思わず笑みを零した。


「俺も今日、兄貴と話してみるよ」

「うん。……ねえ渉、」

「大丈夫だよ。連絡する。ねえ、月曜日も、会おうか」

「……っ、うん」

「泣かないでよ。今度は『織葉』さん、紹介してね」


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