あしたのうた
***
「鏡王女が中大兄皇子のことをどう思っていたか?」
「というより、どのくらい想っていたか、かなあ……」
「……織葉さん、兄貴と何かあるの?」
「うーん……多分、十中八九」
週明け、月曜日。九月も最終日の今日、集まった私たちは報告会のようなものをしていた。
とはいえ、ほとんど私の問題である。渉は徹さんとちゃんと話しができたようで、特に拗れることもなく、元のように接することができるようになったらしい。
私と姉も、話ができていないわけではないのだが。寂しそうな笑い声が耳に残って抜けず、悩んだ末に私は渉に手を借りることにした。
「兄貴からそういう話は聞かなかったけどなあ」
「まあ、そうだよね……そもそも知ってたら、私が会いに行った時に話が出るはずだし」
もしくは、知っていても意図的に隠したか、その二択。
「でもさ、兄貴が隠す理由って何?」
私の思考を読み取ったかのような言葉に驚きつつ、そうなんだよね、と相槌を打つ。
そう、例えば徹さんが姉のことを知っていながら隠していたとしても、その理由が見当たらない。姉のあの反応からすれば、隠してと頼んだ可能性はあるかもしれないけれど、私と徹さんが会う確率なんて限りなく低かったと予測できたろうに。
この時代の二人の関係は、直接訊かなければ分からない。だが姉のあの表情を見ていきなり正面から訊き出せるはずもなく、少しでもヒントになればと過去の関係を考えてみることにした。
「分からないから、『むかし』をヒントにできないかな、って。ねえ、渉は何か知ってることない?」
「知ってること、ねえ……」
うーん、と唸る渉の横で、私も改めて『過去』を思い返す。中大兄皇子と鏡王女が一緒にいるところを見たのは、数える程度。けれど二人に身体の関係があったのは明白だ。藤原不比等がそれを証明している。
但し、あの時代は好きという感情とは関係なしに身体の関係を持った時代だ。子供がいるから好き合っていた、愛し合っていたという方程式は成り立たない。そこから一つ推測するとするなら、身体の関係を許すくらいには嫌いではなかった、ということくらいだろう。あのお兄さんが、嫌がる姉を手篭めにするはずがないから。
「……というか、お兄さんはどうしてお姉ちゃんを中臣鎌足に嫁がせたの?」
「それは、あのままじゃあお姉さんが幸せになれないから……」
「だったら、まず手を出さないんじゃないかな、お兄さんなら」
「……確かに」
後々別れることになるなら、あの人はきっと手を出さなかった。ということは、別れるつもりなんてなかったか、別れざるを得なくなったのかのどちらか。