あしたのうた
失敗したらどうしよう、ということをどうしても考えてしまう。私が信じていないといけないのに、怖いものは怖いと開き直ってしまいたい。
そんなことをぐるぐると考えながら、届いたホットカフェオレのカップを両手で包む。緊張で冷たくなっていた指先がじんわりと解れていくような感じがして、ついでにこの緊張も解してくれたらいいのにというのはちょっとした八つ当たりだ。
からんからん、とドアベルが鳴る。ぱっと顔を上げると、お姉ちゃんの顔が見えた。緊張した面持ちの私と、私の正面に座る渉の顔を交互に見て、きょとんとした顔をする。お姉ちゃん、と呼びかけると、戸惑いながらも私の隣に座った姉は私の顔を覗き込んできた。
「紬、どうしたの? 妹尾くんも一緒でこんな暗い顔して」
「……ねえ、お姉ちゃん」
「なあに紬」
近づいてきた店員さんに抹茶オレひとつ、と頼む姉を見ながら、私はごくりと息を呑んだ。
「……徹さんを、呼んでる」
ぴたりと動きを止める、次の瞬間立ち上がって逃げようとした姉の手首を必死で掴んだ。がたんと大きい音がして店内の視線が私たちのテーブルに集中する、渉が謝ってくれているのが視界の端に映る。唇を噛みしめて立ち尽くす姉を今度は優しく引っ張ると、すとんと椅子に座り込んだ姉と手を繋いだ。
やっぱり、私たちがしていることは間違っているだろうか。姉をこんなに苦しめるなら、やめた方がいいのではないか。
「紬」
向かいから渉に名前を呼ばれて、はっと我に返る。そうだね、私がこんな気持ちになっていてはだめだ。
別に二人がどういう関係であろうと、幸せになることはできるかもしれない。時間が解決することだってあるから、こんなことをしなくてもいつかは何事もなかったかのように笑い合える日が来るかもしれない。
けれど、それは決して『いま』ではないのだ。
それに、後悔が残るかもしれない。ここまで徹さんを避ける理由はきっとあって、その原因がなんなのかは全く想像がついていないけれど、この先、私と渉が結婚した時、まだ姉の中で整理がついていなかったとしたら。
そこで苦しむのは、紛れもなく姉だ。お姉ちゃんのことだから私のことは喜んでくれるけれど、そこに徹さんの影があって、なんてことにはなってほしくない。
だから。いいんだ、もう、これは私たち二人のエゴで。それでお姉ちゃんと徹さんに、何の障害もなくなれば。そうなるために、私たちは動いているのだから。
「ねえ、お姉ちゃん。どうして、そんなに徹さんを避けるの?」
「そ、れは……」
「私は、この先私と渉が結婚した時、お姉ちゃんが苦しむのを見たくない」
「……つむぎ」
くしゃりと顔を歪めるお姉ちゃんを握る手に力を込める。気付いたお姉ちゃんは私の頭をそっと撫でると、ごめんね、と一言謝った。