あしたのうた
「……紬、一緒にいてくれる?」
「う、ん……うんっ、いる、から」
「徹さんは、もう来るの?」
覚悟を決めたような顔をして、お姉ちゃんが向かい側の渉に問うた。はい、と頷く渉に、お姉ちゃんはそっかと呟くと私に向き直る。
「家に帰ったら、全部話すね」
「……待ってる」
複雑そうな姉を、ここから先は見守ることしかできない。
からんからん、と再びドアベルが鳴る。兄貴、と漏れた渉の言葉に、誰が来たのかを瞬時に悟る。力の入った姉の手を繋いでいない方の手でそっと撫でると、眉を下げたお姉ちゃんはありがとう、とだけ囁いてきた。
「……織葉、ちゃん?」
渉に気づいて歩いてきた徹さんが、途中で足を止める。怪訝そうな声音で姉の名前を呼ぶと、ぱっと渉に視線を移した。
「なんで呼んだの」
問いかけではなく、問い詰めるような口調。バツの悪い顔をした渉が、嫌だったから、と一言答える。そのままでは迷惑になると気づいたらしい徹さんが渉の隣に腰を下ろすと、姉がそっと徹さんの名前を呼んだ。
「妹尾さん、渉くんのこと、責めないであげてください。……うちの妹も絡んでるみたいだし」
「……紬ちゃんも?」
私に移された視線に、頷く。静かにその瞳を見返せば、徹さんは大きな溜め息を吐いた。
仕方ない、と言いたげなそれに、私と渉が肩の力を抜く。代わりに力の入った姉の手に、私はそっと隣の顔を見上げた。
「妹尾さん私、」
「織葉ちゃん、謝るのはなしだよ」
姉の言葉を遮って落とされた言葉に、姉の勢いが削がれたのがわかる。図星かあ、と呟きながら困ったように笑う徹さんは、どうしたらいいのかわからないようで。
「とりあえず、今はもう、なんともないの?」
そう問いかけられた姉が、迷いながらも一つこくりと頷いた。
話が見えず、私と渉は黙ったままその推移を見守る。それを分かっている二人は、特に私たちに構うことなくぽつりぽつりと言葉を交わしている。
「完全に、ってわけじゃなさそうだね。まあ、それもそうか」
「……は、い。でも本当に私、悪いことっ」
「いいから。本当は、会うのも避けたかったんだけどな。……弟には弱いんだ」
「私も、なので。……妹尾さんあの、ときは、ありがとうございました……っ」
「……織葉ちゃん」
謝るのは、俺の方だよ。そう言った徹さんに、姉が勢いよく首を振って否定する。泣きそうな顔をする姉の手をぎゅっと握り締めて、私はそっとその顔を覗き込む。心配させまいとしたのか、歪に笑う姉がとても痛くて、私はぐっと唇を噛み締めた。