あしたのうた
でも、真幸さんは。
「真幸さんと千緒は、私と妹尾さんの目の前で、事故に、遭って……、っ」
その先の言葉が、姉の嗚咽で掻き消える。呼びかけることすらできない私は、ただ姉の手を握るだけ。
「っ、千緒は助かった、っけど、真幸さんは、そのまま……っ」
そのまま、息を引き取って。
「私が、千緒からも徹さんからも、真幸さんを奪ったの……っ! 私が真幸さんのこと好きになんてならなければ、真幸さんは今もきっと生きてたのにっ……、あの時反対車線にいた真幸さんのこと、私が呼んだから、っ千緒が飛び出して、車が来てるのに気付いた真幸さんが、助けようと、して……、っ私が名前なんて呼ばなければっ、」
「お姉ちゃん」
「……っ、ううー……」
私のせいなんて、言わないで。
言いたくても、その場を知らない私は迂闊にその言葉をかけられない。言えるのは、徹さんだけ。
「徹さんだって、真幸さんを助けようとして、っでも、間に合わなくってっ、私そこで初めて徹さんと逢って、でも徹さんは私が真幸さんを好きだってこと、分かってて、止まりきれなかった車に轢かれそうになった私を、庇ってくれたのにっ、私徹さんに酷いこと言って……っ」
徹さん。ねえ、徹さん。
お姉ちゃんを、たすけて。
私じゃお姉ちゃんを助けられない。救えない。お姉ちゃんを掬い上げることができるのは、徹さんか千緒ちゃんしか、いない。
千緒ちゃんのことは知っていた。お姉ちゃんの、中学からの親友。その親友の彼氏を好きになって、挙句の果てに目の前で失うようなことがあったなんて知らなかったし、だとしたら、お姉ちゃんがここまで気に病むのもよく分かる。
高校も、お姉ちゃんと同じ南高のはずだ。けれど、そういえばぱったり話を聞かなくなったということに今気付いたって遅い。いつからだったかなんて覚えていないけれど、確かにお姉ちゃんは千緒ちゃんの話をしなくなった。
このことがあったから。きっとお姉ちゃんは、自分のせいだって自分を責めて。
「私の、せいなの……っ」
泣きじゃくる姉を抱き締めることしかできない自分が、酷く情けなかった。
「私が名前なんて呼ばなければ、っわたしが真幸さんのことなんて好きにならなければ、わたしが真幸さんと、っちおと、出逢わなければっ……!」
そうすれば、きっと、みんな幸せに。
「お姉ちゃん、ねえお姉ちゃん」
そうかもしれない。お姉ちゃんがもし、あんな行動をとらなければ、そういう分岐点は沢山ある、けれど。
「でも、そうやって全部を否定して考えないでよ……っ」