あしたのうた
自分にとって一時でもプラスになった出来事を、否定なんてしないでほしい。
私だって、何度もなんども彼と出逢って別れてを繰り返している。その度に辛い想いをして、誓って、それでも出逢わなければなんて思ったことは、ない。
出逢わなければ、なんて、自分たちの存在から否定する言葉だから。
思わなければ、想わなければ、出逢わなければ、行動しなければ────その日、その時間、その場所に、『存在しなければ』。
自分の存在を否定してまで変わってほしい未来なんて、存在しないでしょう?
そもそも、そう考える自分がいるから、そういう『たられば』という考えが生まれるのだ。突き詰めていけば自分がいなかったら、なんて、そんな『たられば』は矛盾している。考えた人はそこまで大きな想像なんてしていないかもしれないけれど、私にとって『たられば』というのは、どう足掻いても変えることのできない事実をより強く肯定するものであるだけだ。
こうだったら、こうじゃなかったら、そう思えば思うほど、そうでなかった現実を目の当たりにする。何度も繰り返してきた私は、そういう思いだって何度も繰り返してきた。
だから、途中でやめた。たらればなんて考えたって仕方ない。今は一緒にいられている、この先も一緒にいられると信じている。それが裏切られたとしても、今その瞬間を後悔なんてしないように。
やらないで後悔より、やって後悔とはよく言ったものだ。
その先のことなんて、誰にも分からない。かみさまにだって分かっているかどうかなんて分からない。だったら、自分の思ったように、考えたように行動する道しか、私たちに残された道はないのだから。
選んだと言わなくても。瞬時に行動してしまったことだとしても。
自分の行動を、言葉を、否定しないで。
「後悔するななんて言えない、そんなの誰だってしてる。だけど否定なんてしないで、お姉ちゃんの気持ちまで、素直な行動まで、全部ぜんぶ仕舞っちゃわないで……っ」
後悔しないなんて、無理だ。
いくら前を、未来を信じている私であったとしても。過去に足を引っ張られて、立ち止まってしまうことはきっと悪いことではない。過去を振り返って、どうしてあんなことをしてしまったんだろうと後悔することだって、沢山ある。
けれど、後悔に囚われないで。後悔して、自分の気持ちや行動まで、捨ててしまわないで。
「……つ、むぎ」
千緒ちゃんと親友だった事実や、真幸さんを好きだった気持ちや。どうして名前を呼んだのか、徹さんが言っていた真幸さんの言葉まで。
ねえ、お姉ちゃん。
「嘘なんて吐かなくて、いいんだよ」
我慢なんてしなくて、いいんだ。