あしたのうた
「……分かった、話そう。ただし、これは俺視点の話になるから織葉ちゃんや千緒ちゃんの方は分からないことも多い。それは分かってほしい」
こくり、と頷いた紬の手に力が入る。それを甘受しながら、俺はまた視線を二人から外すと外へ投げる。
「元々、俺と真幸は中学からの友達でね。渉も真幸とは仲良かったというか、一人っ子の真幸が渉のこと弟みたいに可愛がってたんだ。俺たちが中一で、渉は六つ下だから……七歳だったのか。その頃からの仲で、まあ真幸が渉のもう一人の兄みたいなもんだったし、当然俺と真幸も双子の兄弟レベルで仲良かったよ」
懐かしむように、兄貴が目を細めるのが視界の端に映る。もう、十年前の話だ。人懐こい真幸くんに、俺が懐くのはすぐだった。
「で、話を少し飛ばすと、俺たちが大学生の時、たまたま合コンに呼ばれてね。俺も真幸も逃げ回ってたんだけど、どうしてだったかな、その時は捕まっちゃって逃げ切れなくてさ。そこに、千緒ちゃんが来てた。千緒ちゃんと俺たちが出逢ったのは、それが最初」
あれは、真幸くんが死ぬ少し前の話。一年も経たないうちに、真幸くんは亡くなった。
確か、二人が大学三年の時だった。俺が中三だったから。早く帰ってくると言ったのに中々帰らない兄貴と真幸くんが合コンに行っていたと知ったのは真幸くんが亡くなった後だったけれど。そしてその原因が、合コンで出逢った彼女だったことも。
「人数合わせのために呼ばれたらしくって、千緒ちゃん居心地悪そうにしててさ。織葉ちゃんはいなかったよ。あとから訊いたら、織葉ちゃんがいなかったのは妹が熱出して心配だったからで、先に帰ったところを捕まったって。……その時の妹が紬ちゃんだったんだね」
ふ、と兄貴が寂しそうに笑う。きゅっと力の込められた手に、俺は掛ける言葉を持たない。
「真幸さあ、あいつ千緒ちゃん連れて先に抜けやがったんだよね。俺も抜けようと思ったんだけど、人数の関係で俺は残れって言われちゃってさ。でもあいつ、多分一目惚れだったんだろうね。少ししてから、千緒ちゃんと付き合い始めたって聞いて、何となく納得した。最初から、千緒ちゃんのこと気にしてたから。そしたら千緒ちゃんの友達とも仲良くなったって、織葉ちゃんのこと聞いて、お前にもそのうち会わせるよ、って言ってた直後に……真幸は大学で倒れた」
ごくり、と息を呑む。これは、俺も知らなかった話。昨日初めて聞いた話。
帰ってから、俺にもこの話をしてくれなかった。俺自身織葉さんのことと千緒さんのこと、真幸くんを繋げるので精一杯で、そこまで気にする余裕もなかったけれど。
俺の前では、一切そんな姿見せなかったのに。まだ大学三年生、二十歳を超えてすぐだったのに。