あしたのうた
妹尾渉と、村崎紬。
私たちの名前はずっとずっと、ずっと昔からの繋がりを表した、大切な大切な宝物。
きっともう、この時代で離ればなれになることはない。一緒に成長して、一緒に年を取って、私たちだけではなく姉や彼の兄も幸せになって、あわよくば一緒に死ぬことができたら。
それはこうあってほしいという祈りではなく、きっとこうなるという予感に近いものだ。
これからどうなるかなんて誰にも分からない。これからが分かるのはかみさまだけで、私たちは確信を持つところまではいかないけれど、その予感を信じることはできる。
祈りはやがて、『かたち』になるものだ。
私と彼だって、『最初に』祈ったから今こうして一緒にいることができている。何もしなかったら、何も起こらなかった可能性。ただそこで終わらせたくないと強く祈ったからこそ今こうして起きている現実。
だから、私はゆめをみる。
叶わないものだと知っていても、叶う可能性が低いと知っていても。
もしかしたら叶うかもしれない、望まなかったら何も起こらないからと、万に一つの可能性を信じて。
ずっとずっと、ずっと昔から、私は『夢を見る』。
私たちが私たちではなかった頃の。別の時代に生きていた私たちの夢を。そうして記憶を取り戻して、私と彼は今を生きていくのだ。
いつだって。
私たちの間では夢というものは夢ではなくて、昔あった現実に過ぎない。確かにひとが見るような普通の夢、というものもあるけれど、私と彼の間で夢といったら示すものは一つ、過去の現実だ。
夢というものは酷く曖昧なものであると同時に、ある種つよい意志を持ったものだと、私はいつも思う。
「渉は、今でも『また明日』って言葉は、嫌い?」
誰かのために生きるという言葉が嫌いだと言った。また明日、という言葉が嫌いだと言った。
記憶も過去も未来も、私の信じているものが、信用ならないものだと苦しげな顔で吐き出していた。
それで構わないと私は言って、私が信じる代わりに彼は疑うというスタイルができて。変わってほしいと思っているわけではないけれど、彼は一体どう思っているのだろうか、と。
「……好きか嫌いかといわれたら、まだ嫌い、なのかもしれないけど」
うん、と相槌を打って、彼の言葉を促す。言葉を探しながら口にする彼の頬に、空いている自分の手を当てた。
「紬との明日を、兄貴や疾風との未来を、信じたいと、信じてみたいと思えるようになったよ」
それは、ほんの小さな一歩のように見えて、これ以上ないくらい大きな一歩。
「……だって、紬の信じる未来を信じると、決めたから」