あしたのうた
約束は、守るよ、と。
確かめるように口にしたその言葉に、そうだったね、と笑う。約束は守る。守れなかった約束は、その時点でお互いの命がなくなったようなものだった。
「何かあっても、私はただただ未来を信じているから。渉は渉の好きなようにしてよ。信じられなくても、私が渉の分まで信じているから、大丈夫」
「ふふっ、ありがとう。……本当に」
渉、と名前を呼ぶと、当たり前に返ってくる返事が酷く愛おしい。当たり前じゃないことを知っているから、きちんと呼べば返ってくる答えが、嬉しい。
「これから一緒になって、大学に行って、就職して、結婚して、子供ができて。その間にお姉ちゃんも千緒ちゃんも徹さんもきっと幸せになって。そんな未来が、きっと来るよ」
信じていれば、いつかは必ず。
「知ってる」
だって、紬がそう言うから。
当たり前のように言ってのけた渉に、思わず吹き出した。え、ときょとんとした表情をした彼は分かっていないようで、それがまた笑いを誘う。これだから、私は彼から離れられないし、彼も私から離れられないのだ。
好きよりも、愛しているよりも上の言葉。私たちの答えは、お互いにとっての当り前。
当たり前が存在しないと知っている。それは、『日常』においての当り前であって、感情には関係なく当たり前が存在すると思っている。
私たちは、私たちを信じることが、無条件というより当たり前の事実として存在するのだ。
「ねえ、渉」
「なあに、紬」
そっと名前を呼ぶと、穏やかな声音で彼が呼び返してくれる。
ずっとずっと、ずっと昔から、想ってきた相手。
「うたを、習わない?」
その相手との間には、いつだってうたが存在した。最初の時代も、次の時も、その次の時も、私と彼はうたで繋がってきた。
詠むだけが、うたではない。今の私たちに、うたが詠めるのかどうかはやってみないと分からないけれど。
うたから離れてしまうのは、どうしても嫌だと思ったから。
「昔のうたを?」
ずっとずっと、ずっと昔の沢山のうたたち。そこに込められた、沢山の想いや願い。
そういったものを、きちんと汲んでいけたら。私たちのように苦しい想いを込めて、知られないままで消えていってしまううたがないように。
「きっと、待っているひとがいるよ」
天皇や貴族、武士、そして名前もない詠み人たちが。
「そうやって、二人で、あしたにうたを繋げていこう」
ずっとずっと、ずっと昔からの繋がりを、ずっとずっと、ずっと先の未来まで、繋げるために。
紬、渉、と名前を呼ぶ声がする。河原の上に視線を向けると、幸せになってほしい人たちの姿。
二人で顔を見合わせて、そっと笑う。そちらに一歩踏み出して、伸ばされた手を取った。段々と日の落ちていく空は暗く、もう空にはちらちらと星が光っていて、今日の終わりが近づいているのと対照的に。
幸せなあしたは、すぐそこまで来ている。