あしたのうた


「すぐには思いつかない、かな」

「じゃあとりあえず歩いて回ろうか」


離していた手を、今度は俺から差し出した。


紬の手を取って、二人並んで歩きだす。振り払われなかった手に安堵して、浴衣を着ている紬の歩幅に合わせながら奥に向かって進んでいく。


久しぶりに来る夏祭り。手を繋いだ紬も辺りをきょろきょろと見回しているのを見る限り、頻繁に来ているわけではないらしい。


夏祭りというのは本来は慰霊祭というような意味を持っている。当然聡太郎だった頃はその色合いが濃く、もっと静かなものだったように思えるが。


時代が変われば、行事だって変ってくるものだ。記憶よりも大分と賑やかになった夏祭りだが、渉にはその方が馴染み深い。


「行きたいところ、あった?」

「んー……とりあえず、何か食べ物系行く?」

「時間が時間だもんね……何食べる?」

「私、焼きそば食べたい。渉は?」

「俺もかな。あとは細かいの適当に」


最後まで見て回ってから、紬とどうするか話し合う。時刻はもう六時半を回っている、夕飯にするのにはちょうどいい時間帯だった。


近くの屋台で焼きそばとフランクフルト、フライドポテトを買って、屋台の並ぶその裏手に入り込んだ。賑やかな表通りとは違い、裏は静かで誰も来ない。来慣れているひとは来るだろうがそれも大人数ではないだろうし、落ち着いて食べるならここだと思い出した。


賑やかにはなったが、こういうところはあまり変わっていないんだな、と思いながら適当に石段に腰を下ろした。隣に来た紬が、涼しいね、と俺を見上げてくる。


光はあまり入ってこなくても、夏の六時半過ぎといったらそこまで暗いわけではない。それに人混みが苦手な俺からしたら、このくらいの方が落ち着けた。


夏祭りだって、非日常だ。文化祭だって。お祭りは全て非日常だと、そう思っている。


それよりも、紬の方が気になって仕方なかったから来たわけで。来なかったら恐らく思い出せていなかったと考えると、苦手でも来た甲斐はあったのかもしれない。


「なんていうか、雰囲気に呑まれそう」

「ん?」

「この場所。なんか、表通りとは隔てられてる感じがあるから。……そういえば、『前』もここに来たんだよね」


その『前』が、聡太郎だった頃、だということに気付く。そうだよ、と応えて、ビニール袋に入った焼きそばのパックを紬に一つ渡した。


「ありがとう。……ポテトは?」

「間に置いておこうか。つまめるでしょ?」

「だね。フランクはあとでいいか」

「うん。出店の食べ物食べるの、久しぶりだなあ」


いただきます、と言ってから箸を割る。パックの焼きそばは温かくて、屋台特有の濃い味付けが懐かしかった。


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