あしたのうた
と。声のトーンが、急に変わって。少し硬さを帯びた声に、どうしたんだろうと思っていると。
「好きだよ、紬」
零された言葉に固まったのは、仕方のないことだと思う。
手からペットボトルが滑り落ちる。先週とは違う音を立てて落ちたペットボトルは、私の爪先に当たって止まる。音が違うのは当たり前で、先週は電車の中だったけれど今日は駅のホームで、
「紬」
まるで息をするかのように紡がれた言葉、次いで呼ばれた名前にゆっくりと渉を見る。何度か瞬きをして、その言葉を咀嚼する。
好き。
理解した瞬間、物凄い勢いで椅子から立ち上がった。
「な、……え、」
「その反応はちょっと傷つく」
「わ、た、」
渉。
待って、待って待って。
まだ早いと思っていた。もっと先の話だと思っていた。自分の気持ちは自覚していたけれど、渉は違うと思って、思うようにしていた。
蹴られたペットボトルがころころと転がる。それを拾った渉が立ち上がって、私の向き合うように立つ。上を見上げて渉と視線を合わせると、困ったように笑う渉に全てが溢れ出た。
「す、き。好きだよ、私だって渉が、ずっと逢ったときから、わた、」
「つむぎ」
優しく呼ばれて、言葉が切れる。そっと抱きすくめられて、恐る恐るその背に自分の腕を回す。
彼と彼女だから、いつか一緒になることは『解って』いることだった。けれど、そうではなくて。そうだとしても、私は、彼と彼女はいつもいつも互いに惹かれて、かみさまのせいではなくて自分の意志で、とするならばかみさまのお陰で、一緒になって、その後はかみさまのせいで離れ離れにされて。
怖くないわけでは、ない。この時代でも、そうなってしまうかもしれないという不安はついて回る。
だが、渉と約束をしたから。不安や悩みは聴いてくれると、疑うのは渉だけでいいと、私はひたすらに『あした』を信じていればいいのだと。だから私は信じる。彼と彼女がずっと一緒にいる未来を、信じる。一人ではなく二人だから、お互いがいるから、お互いのために私たちは。
「ずっとずっと、ずっと昔から、私は貴方を愛してる」
「俺だって、ずっとずっと、ずっと昔から君を愛してる」
好き、では足りないくらいの、愛という名の当たり前。
約束なんてしなくても、必ず私たちは一緒になる。『記憶』に影響を受けていないとは言わないけれど、それでも変わらない未来があるからこそ、私は彼はこうしてどちらかが思い出すまで待つことができる。