あしたのうた
こういう時の直感は、当たる。だとするなら、あの予想と、この違和感は、繋がっているということにもなる。ただ、知識として繋げるだけでは、この二つを結びつけることはできない。どの事実がどう変わっているというのか、そもそも千年以上前のことがこの時代まで間違いなく伝わっていること自体奇跡に近いようなものである。
そんなに気にしなくてもいいようにも思うが、気になるということは何か大切なことなのだろう。違和感と予想は前提として、それ以外に分かっていることはほとんどない。
「……君待つと」
「我が恋ひをれば 我が宿の 簾動かし 秋の風吹く」
「あかねさす」
「紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」
「紫草の」
「にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに われ恋ひめやも」
口にした第一句、即座に続きを詠う渉がどうしたの、と問うてくる。何か分かるかな、と思ったが、どうにも分からない。関係あるとしたらこの三つのうたかと思ったのだが、思い違いなのだろうか。
「約束、って言いたいところだけど」
「うーん……」
「言葉にできない?」
「うーん……うん、難しいというか、うん無理、かも」
「言葉にできるようになったら、教えてね」
こくり、頷くと、丁度よく電車のアナウンスが入る。ふ、と途切れた会話はそのまま、電車が来るのを二人で黙って待つ。その沈黙は嫌なものではなくて安心するもので、滑り込んできた電車に乗り込むと二人並んで座った。
先程の疑問は解けない、けれどそのうち分かる時が来ることは知っている。それを待つのもまた一興、気にはなるが気にしないことはできると思いながら繋いだままの手に意識を向ける。
「紬? どうしたの?」
と、渉の囁き。なんでもない、と返して、あのね、と渉にだけ聞こえるような大きさの声を出す。そう多くはないものの乗客は何人か乗っていて、一応それを気にした。
思い出したように差し出されたペットボトルを受け取り、来週、と一言だけを落とす。嗚呼、と思いついたらしい渉がそうだねと悩んで、水曜日、とこちらも一言。
「あそこでいい?」
「寧ろ他にどこがある?」
「……神社?」
「暗いから危ないでしょう。河原でいいよ」
「分かってた」
毎週水曜日が渉と逢う日になりそうだ。
平日五日間、水曜日はその中日。だらけてしまうことの多い水曜日に渉に会えるのは、否いつだって嬉しいのだけれど正直嬉しいし、楽しみがあるならだるい水曜日だって乗り越えられる。
「楽しみだね」
「今度またどこか行く?」