あしたのうた


「『あした』なんて当たり前じゃないからで、いつ『あした』が来なくなるかなんてわからないのに、そうやって馬鹿みたいに『あした』を信じて、色んな人たちが辛い思いをしてる、から、だったら『あした』なんて信じなければいいって、」

「馬鹿、つったか?」


ねじ込むような疾風の言葉に口を噤んだ。怒って、いる。言葉の端に隠しきれていない怒りを感じて、それ以上言葉を紡ぐことは叶わない。


「信じて何が悪いんだよ? 『あした』が来ないことを怖がって何ができんだよ? 確かに明日やろうは馬鹿野郎、なんて言葉はある。けど、それとはまた別だろ。明日が来ない人だっているよ、そりゃあな。人生は永遠じゃねーんだから。お前がどんな経験してきたのかは知らねーけど、そうやって怖がって信じないのを人に押し付けるのは違うだろ。否押し付けてはいねーだろうけど、なんつーか、あーもう!」


苛立ったように声を荒げた疾風にびくり、と肩を揺らす。がしがしと頭をかいた疾風が舌打ちをして、気持ちを落ち着かせるように深呼吸した。


「俺にはお前の気持ちがわからん! 『あした』が来ようと来なかろうと、今俺たちが生きてる時点で『あした』は存在すんだよ! 『あした』がどうとかじゃなくて、とにかく俺たちが生きてるのは『未来』があるからだろ!? こうやって話してる間に過ぎて行く時間があるから、その時点でだから明日も未来も存在してんだよ!」


未来が、あるから。過ぎて行く時間が、未来があった証。


そういう考え方を、したことはなかった。新鮮な考え方に、真っ直ぐに疾風を見返す。言い切った、というようにすっきりした顔を向ける疾風に、俺は我慢できずに思わず吹き出した。


「な……んで笑うんだよ!? 人が必死になって考えたのに! 失礼だな!」

「っ、ごめんごめん!」


だって、俺にはその考えが新しすぎた。ずっとずっと、ずっと昔から繰り返して来て、『あした』なんて信じられない、信じたくないと自分から目を背けていた。


それを、疾風は簡単にひっくり返してくる。俺とは全く違う視点から物事を見て、考えて、そしてちゃんと正面からぶつかって伝えてくれる。


だからと言って、『あした』を素直に信じられるかどうかは、また別問題だ。ずっとこの考えできたのだから、簡単に変えられるものではない。けれど紬と出逢って、『あした』を信じたいと思って、疾風と話して、『あした』は当たり前でいいのだと、知った。


それは、大きな一歩。俺にとって、一つの成長。


疾風と出逢えてよかったと、ちゃんと思っている。紬だけではなく、疾風とも。排他的、と疾風は言うし、それは否定できないかもしれないが、これでも周りの存在は大きく感じているのだと。


「わーたーるー!」


本人に言うことは、今はしないけれど。いつかどこかの拍子で。直接ではなくてもいいから、俺がそう思っていた証拠、を。


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