あしたのうた


疾風に、伝えられたらと、そう思っている。


「……んで、悩みは解決したか?」

「それは全然」

「なんだ違うのかよーちょっとは期待したのに俺何場違いなこと言ってんだ」

「そんなことないって。言ってくれて嬉しかったよ、俺」

「ばっ……!? そーかよ! そりゃよかったな!」

「……?」


急に目を逸らして口調が荒くなった疾風に首を傾げた。さっきの荒れ方とはまた違う。ほんのりと染まる頬を見つけて嗚呼照れてるのか、と気付いたことには触れないでおいた。


不意に、沈黙。耳を染めたままの疾風に気付かれないように小さく笑う。そのままでもよかったけれど、ふと気になったことを思い出して、疾風に質問を投げた。


「そういえば、芝山さんと従兄弟って、」

「嗚呼それ? 俺の父さんと天音のかーちゃんが兄妹なんだよ。父さんたち仲良くて、割と家も近いから天音とは小さい頃からよく遊んでた。言ったつもりだったけど知らなかったんだな。てことはもしかして村崎さんも知らねえ?」


多分、と答えた声が沈んでいるのには気付いた。


ひょい、と器用に片眉を跳ね上げた疾風が、怪訝そうな顔をする。何がそんなにおかしいのか、先程からずっと同じことで悩んでいるというのにどうして自ら紬を思い出すような話題を出してしまうのだろう。


「村崎さんと何があったんだよ」

「……うーん」

「言わねえなら訊かねーけど、なんのアドバイスもできねえからな」

「うーん……」


疾風から視線を外し、窓の外を見る。大分暗くなってきた外、紬と会わないのにこの時間まで家に帰っていないのは久々かもしれない。


アドバイスが欲しいのか、自分でも分からなかった。連絡が取れないことを、果たして言っていいものなのかも分からなかった。昔、からすれば連絡は取れないことが当たり前で、確かに悩むことはあったが今この時代の連絡の取れなさの悩みとはもっと別次元での問題。とすると、この悩みというのは人に話してもいいものなのか。


「黙ってちゃわかんねーんですけどー?」


なあ渉、と呼びかけられて、もう一度唸る。少し悩んだ疾風がうまくいってねーの、と投げてきた言葉に、三拍遅れて首を左右に振った。


「うまくいってない、訳ではないと思う、んだけど……」


連絡が取れないことは、うまくいっていないというのだろうか。そもそも連絡が取れないのだから、上手く行く行かない以前の問題なのではないだろうか。


頭の中をぐるぐると回る疑問を、一度端っこに追いやる。一人で悩んでても、この問題は解決しない。全てを話すことはできないが、ふつう、のカップルとして、疾風に話をするのは構わないだろうと判断。


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