あしたのうた
「……付き合ったその日から、連絡が取れてなくて。水曜日に約束してるから、それはちゃんと来るはずなんだけど」
「え、付き合ってすぐに連絡取れなくなったの? つーことはその前から連絡は取ってたのか?」
「……それは、取ってましたね」
そうでなければ一足飛びに付き合うことにはならないと思う。
「嗚呼そりゃそうか。あーと、その前までは普通に連絡取れてたのか?」
「……普通、かはわからないけど、週に一回は連絡してた、かな」
「週一ってそんなに多くはないと思うけどな……?」
少々信じられないものを見るような目で俺を見て来る疾風に首を傾げた。そう、だろうか。それでもその日にきちんと返事は返ってきていたし、そのくらいかと思っていたのだが。俺からすればこの時代に染まっているが、周りからしたらそうでもないのかもしれない。
ふーん、と鼻を鳴らした疾風が腕を組む。なんでだろうな、とあっさり言い放って、すぐに腕を解いた疾風は勢いをつけて椅子から立ち上がる。
「つーか、会いに行けばいいじゃねーか」
「……でも、水曜日に約束してるから、それまで待つ」
「んまあそれはそうかもしれねーけど、つか約束してんのかよ。じゃなくて、ねーちゃんがいんだろ、ここに」
「……否、無理じゃないかな?」
姉がこの学校に通っているということは、紬本人から聞いている。それこそ、初めて逢ったあの文化祭で。けれど名前までは知らないし、三年生というだけではひと学年三百人近くいるこの学校で、探すのは難しい。
文芸の先輩に訊けば、もしかしたら繋がるかもしれないが。わざわざそこまでしてでも会いたいわけでもなく、というよりも会ってどうすればいいのか、それが分からないのに探すわけにもいかない。
「俺、織葉先輩なら知ってるけど」
「……おりは?」
「知らねーの? 村崎さんのねーちゃん。弓道部の」
知ら、なかった。というか、どうして疾風は知っているのか。
芝山さんか、と見当をつけて、弓道部と口の中で繰り返す。村崎、織葉。紬との名前の共通点に気付いて、思わず小さく笑った。
紬と会えたら、話が出来たらいいと思う。紬は兄貴のことを知っているから、俺も少しは紬のことが知れたらいい、と。
「いいよ、大丈夫。考えてみたら、元から週一で連絡取ってたんだし、一週間くらいなくても、……多分」
「思ってねーだろ。まあ、それで渉がいいなら俺はなんも言わねーよ」
「ん」
「んじゃま、帰りますか。渉部活は?」
「今日は行かない。帰るよ」
荷物を纏めて、教室から出て行く疾風を追いかける。二人並んで駅に向かうと、上りと下り正反対の俺たちはあっさり別れた。