コクリバ 【完】
グイっとドアが引っ張られて、中が丸見えになった。
中からは私も丸見え。

「おかえりー」
野太い声の大合唱。

兄の友達のいつものメンバーが勢揃いして、一斉にこっちを見ている。

こわっ。
一気に引く。

あまり見ないようにさっさとドアを閉めようと引っ張ると、ドアが押さえられていて動かない。

誰だ。そんな意地悪するやつ。

ドアの横には、左頬を上げた高木先輩がいた。

「あ……」

口を開けたまま、見つめ合ってしまった。
いや、動けなかっただけなんだけど……

なんで先輩がうちに?

うちの雑然としたリビングに、端正な顔の高木誠也がいる。

お土産でもらった木彫りのクマや、南米の民族衣装を着た人形の前に、
インターハイ予選で会場中の涙を誘った高木誠也が、胡坐をかいて座っている。

合ってない。

まったくミスマッチな光景を、すぐには信じることができなかった。

「妹だ」
背後から兄が、新参者の高木先輩に紹介いている。

「どうも」
そう言って先輩が会釈した。

どうも初めまして……なんだろうなと思った。
初めましてを演じるつもりなんだろうと解釈した。
だから私も、ぺこりと頭を下げた。

本当は付き合ってるし、今度お泊りの約束までしていることは二人だけの秘密。
この部屋にいる人たちは誰も知らない……

ドキドキが部屋中に聞こえるんじゃないかってくらい鼓動がうるさい。

「同じ高校の1年だ。よろしく頼むな」
兄が、兄らしく、妹を配慮した言い方をした。
こういう時の兄は普通で、良い兄だと思う。

ただ……
「俺の妹だからな。手は出すなよ!」

これがイヤだ。
しかも軽く高木先輩を睨んでいる。

先輩は、左頬で笑って頷いた。

そしてその目が私を見てさらにニヤリと笑う。

もう遅いけど…
……そう言いたげな眼だった。

悪戯なその目に、頬が熱くなる。
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