コクリバ 【完】
兄の友達が大勢来ていた小学生のころは、母がよくカレーを作って振る舞っていた。
それは我が家の定番だった。

「お母さんは?」
「まだ帰ってこない」

そうだった。地域の班長会とか言っていた。

「カレーでいいから」
「カレーしかできないって」
「お!じゃいいんだな」
「違う!私一人じゃ無理だって」
「じゃ、誰か手伝わせるから」
「そんな問題じゃなくて…お兄ちゃん!」

兄は最後まで聞かないで、サッとまたドアを開けて、
「雅人。ちょっと来い」
菊池雅人を呼んだ。

「ちょっとお兄ちゃん。お母さんいなかったら無理だって」

兄は私が後ろから言ってるのを無視して、
「雅人、おまえも飯、作るの手伝え」
勝手に決めた。

「いっすよ」
軽い。
菊池兄弟の弟は、こんな扱いに慣れているんだ。

そして私も……
「じゃ、頼んだ」

兄はそれだけ言うと、リビングに戻って行った。

「何、作るの?」
菊池雅人は我が家のようにキッチンに向かう。

「…はぁ。カレーです」
肩を落としながらその後ろをついて行くしかない。

ふと立ち止まった菊池雅人が振り向き、
「奈々。俺に敬語とかいいから。なんか距離置かれてる気がする」
「……うん。分かった」

菊池雅人と話したのなんて、もう覚えていないくらい昔だけど、こうやって話してみるとあんまり変わってない。

「何人いるの?」
「えーっと……」

菊池雅人が指を折りながら数えて、不意に私の後ろの方に顔を向けた。

それに気付いて私も振り向くと、
高木先輩が立っていた。

胸がドキンと鳴る。

「おう。どうした?」
菊池雅人が高木先輩に聞いている。

「俺も手伝う」
高木先輩がキッチンに入ってきた。

我が家の、ちょっとごちゃついてるキッチンに……
こんなとこ見られたくない。
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