コクリバ 【完】
「やばいぞ。おまえら真面目にやれ」
兄たちの容赦のない攻撃にいつも晒されていた菊池雅人は、カレーが出来上がってないときの制裁を恐れているようだった。
そして私も……
「どうしよう…ご飯忘れてる…」
「バカ!何やってるんだよ!急げ!」
「何人分?ってか何合?」
「9人だよ。これじゃ足りない。もいっこ炊飯器持ってこい!」
「分かった」
慌てて2台目の炊飯器を取り出し、
「奈々、急げ!」
「う、うん」
お米を5合ずつ用意して洗うけど、洗い慣れてない私には5合の洗米は厳しくていつまでも終わらない。
「貸せよ」
それまで余裕の表情で見ていた高木先輩が私の横にスッと立って、お米を取った。
リズムよく洗われていく米たち。
先輩の筋肉質の腕と、その大きな手に見入ってしまう。
突然高木先輩の手が止まる。
不思議に思って見上げると切れ長の瞳が私を見ていた。
目が合うと左頬が上がった。
「そんなに見るなよ」
低く囁かれたその声に、またしても私の頬が熱くなる。
お腹の内側がぞくぞくするような、危険な雰囲気。
「急げよ。奈々、玉ねぎやれ!」
なのに菊池雅人の声が容赦なく甘い時間を割く。
もっと先輩の隣りで見ていたかったのに……
「セイヤ。おまえ上手いな」
今度は菊池雅人が先輩の手元を覗き込んでいる。
「あぁ。慣れてるからな」
先輩は家でも手伝いをしているんだ。
この頃の私の判断の基準はまだ自分の生活が中心。
高木誠也の生い立ちなんて考える余裕すらなかった。
「奈々。遅い」
何も先輩の前で言わなくてもいいのに、菊池雅人が兄貴面をする。
「玉ねぎが苦手なの!」
言い訳にもならないけど、手際の良い先輩の前ではカッコつけたかった。
「奈々ちゃん。ちょっといい?」
タイミングよくキッチンの入口から中山さんが現れた。
これで逃げられるかも、と思った私は
「はい」
こころなしか声が高くなった。
「呼ばれてるのでちょっと行ってきます」
ニッコリ笑って二人に告げると、
「逃げるなよ」
どうやら菊池雅人には見破られているようだった。
兄たちの容赦のない攻撃にいつも晒されていた菊池雅人は、カレーが出来上がってないときの制裁を恐れているようだった。
そして私も……
「どうしよう…ご飯忘れてる…」
「バカ!何やってるんだよ!急げ!」
「何人分?ってか何合?」
「9人だよ。これじゃ足りない。もいっこ炊飯器持ってこい!」
「分かった」
慌てて2台目の炊飯器を取り出し、
「奈々、急げ!」
「う、うん」
お米を5合ずつ用意して洗うけど、洗い慣れてない私には5合の洗米は厳しくていつまでも終わらない。
「貸せよ」
それまで余裕の表情で見ていた高木先輩が私の横にスッと立って、お米を取った。
リズムよく洗われていく米たち。
先輩の筋肉質の腕と、その大きな手に見入ってしまう。
突然高木先輩の手が止まる。
不思議に思って見上げると切れ長の瞳が私を見ていた。
目が合うと左頬が上がった。
「そんなに見るなよ」
低く囁かれたその声に、またしても私の頬が熱くなる。
お腹の内側がぞくぞくするような、危険な雰囲気。
「急げよ。奈々、玉ねぎやれ!」
なのに菊池雅人の声が容赦なく甘い時間を割く。
もっと先輩の隣りで見ていたかったのに……
「セイヤ。おまえ上手いな」
今度は菊池雅人が先輩の手元を覗き込んでいる。
「あぁ。慣れてるからな」
先輩は家でも手伝いをしているんだ。
この頃の私の判断の基準はまだ自分の生活が中心。
高木誠也の生い立ちなんて考える余裕すらなかった。
「奈々。遅い」
何も先輩の前で言わなくてもいいのに、菊池雅人が兄貴面をする。
「玉ねぎが苦手なの!」
言い訳にもならないけど、手際の良い先輩の前ではカッコつけたかった。
「奈々ちゃん。ちょっといい?」
タイミングよくキッチンの入口から中山さんが現れた。
これで逃げられるかも、と思った私は
「はい」
こころなしか声が高くなった。
「呼ばれてるのでちょっと行ってきます」
ニッコリ笑って二人に告げると、
「逃げるなよ」
どうやら菊池雅人には見破られているようだった。