コクリバ 【完】
中山さんは私が引いた手を取り、その上に箱を乗せて、箱の中から華奢なチェーンをそっと取り出した。

「そんなに高価な物じゃないから遠慮しないで」
中山さんの指先でジュエリーが揺れる。

「奈々ちゃんも16歳でしょ?これくらい持ってなきゃ…」
そう言うとチェーンの引き輪を外した。

「でも中山さんから貰う訳にはいきません」
私は箱を返そうと腕を上げた。瞬間、中山さんはその腕を握って後ろを向かせた。

「遠慮するなよ。もう一人の兄貴からだと思えばいいだろ」

あまりにも自然で抵抗できないまま首にペンダントが下げられた。

一瞬抱きしめられるような格好に恥ずかしさを覚えたけど、すぐにその手は離れて、私を前に向け直す。
中山さんはペンダントと私の顔を交互に見て、

「うん。似合ってる」

満足気にそう言われたけど、私が本当に似合っているとは思えなかった。
それくらいそのジュエリーは大人な雰囲気に感じた。

「気に入らなくても返さないで。返されても困るし…」
中山さんは私から視線を外し、リビングへの扉を見ている。

素直にもらってもいいんだろうか。
でも、兄からなら素直に受け取ってると思うし……

「戻ろうか」
中山さんが一歩そっちに足を踏み出したとき、
「あの……ありがとうございます」

私はペンダントを受け取ることにした。

中山さんは振り返って優しく頷き、私の頭にポンと手を乗せた。

本当の兄にはそんなことされたことなかったけど、もし優しいお兄ちゃんだったらこんな感じなのかもしれないと想像した。


だけど、すぐにこの判断を後悔することになった―――
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