コクリバ 【完】
「もらったのか?」
高木先輩が身体ごと私に向く。
だけどその手には包丁が握られていたから、私の顔はひきつった。

「セイヤ!おまえ包丁置け。いいから一旦包丁離せって」
菊池雅人が高木先輩の手から包丁を奪う。

高木先輩は一瞬で私との距離を詰めると、ペンダントを隠していた手を捩じりあげた。

「い、痛い……」
その手の力が異常に強くて、
「さっきまでなかっただろ。これどうしたんだよ」
怒っている先輩が怖くなった。


「セイヤ。落ち着けって。奈々がビビってるだろ」
菊池雅人も慌てている。

「奈々。それ中山さんにもらったのか?」
菊池雅人が心配そうに聞いてくるけど、答えられずに下を向いた。
それなのに高木先輩はアゴに手をかけ無理やり上を向かせる。

先輩の目が真っ直ぐに私を睨んでいる。

泣きそうだった。

この状況で「もらった」なんて絶対に言えない。
目だけを逸らしてこの沈黙をやり過ごそうとした。
< 115 / 571 >

この作品をシェア

pagetop