コクリバ 【完】
「あぁ。もうすぐ奈々、誕生日だったな。だからだろ、それ。な?」
菊池雅人が反対の腕を引っ張って、私を高木先輩の刺すような視線から解放してくれた。

「な?そうなんだろ?」

固くなっていた私の身体に血液が通い出し、その問いに、首を縦にカクンと動かした。

「他に何言われた?」
それでも高木先輩は許してくれそうもなく、執拗に迫ってくる。

初めて先輩を怖いと思った。

その切れ長の瞳も
少し扱けた頬も
半分開かれた薄い唇も…

いつもなら陶酔してしまうその顔は、全てが恐ろしかった。


この時、もし高木誠也のこの異常な独占欲に気が付いていたら、未来は違っていたかもしれない……



「怖ぇよ、セイヤ。今のおまえマジヤバイって。おまえのそんなとこ初めて見た」
菊池雅人が敢えて明るく言う。

「中山さんが奈々のこと気に入ってるなんて前からだろ。今更気にすることかよ。そうだろ?」
菊池雅人はフォローのつもりなんだろうけど、その言い方は事態を悪くしているような気がする。

「告られたのか?」
高木先輩の右眉だけが上がっていて怖かったけど、ブンブンと首を横に振った。

「何も言われてない…です」

やっと尋問に答えることができた。
一旦声が出ると、私も落ち着いたのか、ちゃんと説明することができた。

「もう一人の兄からだと思えって…16歳だからそれくらいいるだろって…」
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