コクリバ 【完】
高木先輩はダイニングテーブルの下に入れてあった椅子を音を立てて引くと、そこにどっかと腰を下ろした。
もう一緒に料理はしないし、話もしないってことなのかもしれない。

「奈々。おまえこっちやれ」
菊池雅人はそんな高木先輩を放ってカレー作りを再開した。

私もニンジンの皮むき作業に参加したけど、居た堪れない沈黙を背後から感じる。


「下手くそ」

しばらく沈黙が続いたあと、背後から高木先輩が呟いた。
振り返ると左頬が上がっている。

涙が出そうなくらいその笑顔が嬉しかった。

「おまえが持ってんの玉ねぎかよ」
涙をためた私にそんなツッコミまでして、楽しそうな高木先輩。

「奈々。おまえ、もうちょっと料理した方がいいぞ」
菊池雅人までそんなことを言いだした。

でも、それでも嬉しかった。
先輩の機嫌が直ったことがすごく嬉しかった。


「セイヤが嫉妬してるの初めて見た」
落ち着くと菊池雅人が呟いた。

「アイツな。これまでどっちかと言うと来る者拒まず去る者追わずって感じだったんだけどな……」

「これまで…」
やっぱりというか、そうだろうとは思っていたけど、先輩には過去に付き合ってる人がいたんだとハッキリ知ってしまった。
好きな人の過去はやっぱり気になる。

「余計なこと言うなよ、まーくん」
「だから、その呼び方やめろって!おまえが言うと気持ち悪いんだよ」
「だったら奈々ならいいのかよ。おまえもロリコンじゃねぇか」
「……おまえが言うなよ……」

フッと空気が揺れた。
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