コクリバ 【完】
材料が大体揃ったところで、大鍋を取り出した。

……で、どうするんだっけ?

助けを求めて、菊池雅人を見上げるけど、
「なんだよ。俺も知らねーって」
一歩下がってまで拒否された。
「おまえら料理くらいしろよ」
頼りになる高木先輩が椅子から立ち上がって一歩踏み出した時に、
「ただいまー」
玄関から聞こえたのは母の声。

「はぁ~」
助かった。

「おかえり~」
普段は絶対しないんだけど、玄関まで迎えに行くと、両手いっぱいにジュースの入ったビニール袋を下げた母が、リビングの兄たちと話してるとこだった。

「お母さん、遅いよ」
「カレーできた?」
「まだ」
「何やってるのよ」
「無理だよ。この人数分は…」

キッチンに入ると母はそこに立っていた二人に気付いてニッコリ微笑んだ。

「あら?まー君でしょ?大きくなったわね」
苦笑いの菊池雅人。その横で高木先輩は嬉しそうに左頬を上げている。

「そちらの方は?」
「高木です。初めまして」

直り礼儀正しくお辞儀する高木先輩。
菊池雅人がそれに続ける。

「俺のチームメイト」
「そう?じゃバスケ部の?」
「うん。こいつにキャプテンの座を奪われた」
「あはは…じゃ、智之の後輩ね」
「はい」

母は高木先輩にニッコリ笑っていた。たぶん高木先輩のことを気に入ってくれたんだと思う。

「で?どこまでできてるの?」
現実に引き戻された。

「これから鍋に入れるとこ」
「うん。奈々にしては上出来じゃない」
「二人に手伝ってもらったから……」
「……みたいね。ごめんなさいね、手伝ってもらって」

母は二人にダイニングテーブルから椅子を引いて勧めた。

「奈々。二人に飲み物出して。残りはあっちに…」
そう言ってリビングを指さす。

それからの母の動きは無駄が無かった。
そんな母の背中を頼もしく見ていたら、
「奈々!ボーっとしてないで手伝いなさい」
高木先輩の前で怒られた。
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