コクリバ 【完】

合宿

突き抜けるように青い空に、もくもくと育った白い入道雲が大きくその存在を主張しているこの日
ついに美術部の合宿の日が訪れた。

何日も前からこの日のシミュレーションをし、持ち物・洋服・友達への根回し、全てに万全の態勢。
もちろん足の爪のオシャレまで忘れてはいなかった。

そして昨日迎えた17歳の誕生日に、母が買ってくれた携帯を最後にバッグに入れて、私は家を出た。

玄関で兄と一緒になったときは、バレるんじゃないかとドキドキしたけど、
「気を付けて行ってこいよ」
兄は何も疑わずに見送ってくれた。

私の良心がズキリと疼いた。

集合時間よりかなり早めに駅に行って、コインロッカーにお泊りグッズを入れた。
この行為自体に既にドキドキする。


高校のある駅から2駅分電車に乗って、私たちは水族館に着いた。
合宿と言うより全員が遠足のノリで、顧問の先生も一緒になって楽しんでいる。

水族館の中でみんな一応スケッチブックを取り出し、亀やペンギンや屋上からの風景や、訪れていた家族連れなどを気が向いたら描いていく。
私と絢香もイルカの水槽の前に並んで座り込んで一応スケッチブックを開いていた。

「ねぇ、なんで水族館なんだろうね」

混み合っているイルカの水槽前、ほとんどイルカの姿を捉えることはできない。

「なんで?」

面倒そうに答えた絢香のスケッチブックを覗いてもたいして何も描かれていない。

「動物園とかならさ、もっと広くて風景とかも描けるじゃん」

私も鉛筆をクルクル回しながら、走り回る子供たちを見ていた。

「バカね。動物園なんて暑いじゃん。日焼けしちゃうよ」
「あ、そうか」
「奈々は高木先輩のことで頭ン中いっぱいなんでしょ?」
「は?違うし」
「ふ~ん」

絢香の方を見ると、ニヤリ顔で私を見ている。

「何?」
「ううん……今日だなって思って……」
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