コクリバ 【完】
そこには、

白いダボッとしたTシャツに、短パン。NIKEの紺色のスポーツバッグを肩から下げた高木先輩がいた。
まるでこれから練習試合にでも行くような格好。

やっぱりカッコいい。

先輩が私たちに気付いて、一瞬左眉を下げた。

「こんにちは」

絢香が楽しそうに挨拶するけど、高木先輩は軽く頭を下げたきり、私たちからは距離を取って近づこうとはしない。

だけど…先輩が耳を引っ張っている。

絢香が私の方に近付いてそっと囁く、
「高木先輩怒ってるっぽいから、私帰るね」
「え?先輩、怒ってないよ。照れてるんだと思う」

絢香の目が怪訝そうに細められた。

「あれで?よく分かるね」

絢香は私をニヤリと見ると、「じゃ。頑張ってね」と、私の肩を叩いて歩き出した。

頑張るって…

余計なことまで考えてしまう。


「その荷物なんだよ。何泊するつもり?」
高木先輩に近づくと、私の大きなバッグを見下ろし笑っている。

「大きいですか?」
先輩はそれには答えずに絢香の去った方を見て、
「3人で行こうと言い出すかと思った」
そう言って左頬で笑った。

照れているような、自嘲しているような、その横顔が可愛く見えて、緊張が少しほぐれた気がする。

でもここはまだ学校の最寄りの駅だから、人目に付く可能性があるということで、バラバラに改札を通った。

先輩が私の後ろを歩いている
私の意識は背中にばかりいってしまう。

目的地はここから1時間ちょっと離れた隣の市。
そこはここよりも栄えているけど、あまり行ったことはなかった。
みんなデートや買い物は、反対方向のもっと近い街に行っているらしい。

一人で電車に乗り込み、二人掛けの席に座ると、少し間を開けて先輩が隣に座ってきた。
とても自然な感じで、私の方は見ないで、座ってくつろいでいる。

電車が発車するまで何も会話はしなかった。
私も窓の方を見て、まるで他人のフリ―――

なのに…先輩は隣で俯いて笑っている。

「何で笑ってるんですか?」
小声で聞いてみた。

「こんな空いてる車内で隣に座ってるのに、知らない人だったら怖いだろ」
そんなことを言いだした。

「だったら何で隣に座ったんですか?誰かに見られてもいいんですか?」
「誰もそれらしいのいないから隣に座ったんだろ」

そう言うと片手で目を覆うようにして笑い出した。
なんだか一人で演技していたのがバカバカしい。
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