コクリバ 【完】
目的の駅に着くと、日は沈み薄暗くなり始めていた。
私は初めて男の人と手をつないで街を歩いた。

大きな手のひらに包まれている安堵感が、知らない街を歩いていても不安にさせなかった。

コインロッカーに大きな荷物を入れて、二人で繁華街を手を繋いで見て回る。
会話したり、黙って見つめ合って微笑んだり、私たちは二人の時間を堪能した。

「誕生日プレゼント何がいい?」

突然、そんなことを聞かれた。

「私、昨日、誕生日だったんです」
「知ってる。雅人に聞いた」

先輩が私の誕生日を知ってくれているということだけで、もう満足だった。
そのことを目で伝えようと先輩を見て微笑んだ。

「ニヤついてんなよ。プレゼント何にするんだ」

口で言わないと伝わらないらしい。

「今日、一緒にいれるのが一番のプレゼントっていうか、嬉しいです」
「は?いらないの?」
「あの……じゃ、いります」

一旦断るのが大人の返答だと思っていたけど、やっぱり欲しい。

先輩がくれる物だったら、例えいらない紙屑でも私には宝物になる。

「じゃ、ペンダントにするか?」

そう言った先輩の目が怖い。
この前の中山さんからのプレゼントを意識しているのかもしれない。

「ストラップがいいです」
恐る恐るリクエストしてみた。

「ストラップ?」
「携帯の。先輩とお揃いがいいです」
「……ペア?……ありえねぇ」

一刀両断

思わず歩いていた足が止まってしまう。

「……」
「なんで止まるんだよ」
「……」

何がいいかと聞かれたから正直に答えたのに、すっぱり否定されて、そりゃ笑顔も引き攣るよ。

「買ってやるよ」
「え?」
「でも俺の趣味に合わせろよ」
「はい!」

先輩は面倒そうだったけど、私は嬉しくて弾むように歩くのを再開した。

私が可愛い物系のショップに寄ろうとすると、手を引っ張られ拒否された。
先輩が入った輸入品が置いてあるお店の中で、スカルのストラップを見せられたときは、私が拒否した。
左の眉が下がっていたけど気にしないで他のストラップを探した。
シルバーのハートが連なっている大人な感じのストラップに惹かれ、手に取って先輩に見せたらイヤな顔をされた。
先輩の手にはクロスのシルバーがついてるストラップが握られている。

「ハートはどうですか?」
「俺がハートってキャラか?」
「似合うと思いますけど」
「じゃ、おまえはそれにしろよ。俺はこっちにする」
「そしたらペアじゃなくなります」
「ヒモの色が一緒だからペアだろ!」

先輩なりのペアの定義で、シルバーのストラップを買ってもらった。
モチーフはそれぞれハートとクロス。
それでも一緒に買った物だから、嬉しかった。
誰が何と言おうとペアだったと思う。



それは数年経っても大事に引き出しにしまってあるくらい大切な想い出。
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