コクリバ 【完】
陽が沈んでしまったあとは、大きな窓があるファストフード店で時間を潰した。
窓の外では車のライトが眩しく行きかい、仕事帰りの人たちが家路を急いでいる。
私たちは奥まった席で携帯電話の機能で遊んでいて、高木先輩は何度も「早く携帯が欲しい」と言っていた。

でもこのデートが、先輩が携帯を持つのを遅くしたことは間違いないだろう。
そんなことにも気が付かないで、私はただはしゃいでいた。

私の携帯にシルバーのハートのストラップを付けてくれたのは先輩だった。
先輩は携帯を買うまでは…という暫定処置としてNIKEのバッグにシルバーのクロスのストラップを付けていた。

私たちだけが知っているペア。
そう考えただけで、胸がフワフワとピンク色になる。

二人でいるだけで楽しくてずっと笑っていた。

家族の話や、先生の話、幼い頃の思い出や、将来の話。
先輩の話はどれも面白かった。
私がこれまで全く体験したことがない、というかそんな世界があったのかというような、興味深い話ばかり。

お母さんが亡くなっていたこともこの時に聞いた。

だから料理ができるのだと、
「親父と兄貴は作ろうとしないから俺が作るしかなかったんだよ」
そう言った先輩は、なぜか嬉しそうで。
「弟がそのことだけは俺を認めている」
ちょっとお兄さんらしい発言も意外と可愛いかった。

これまで憧れの対象だったその人が身近な人に感じられて、私は終始笑顔だったと思う。

決してムードのあるような場所ではなかったけど、
それでも私たちは二人でいられればどこだって良かったんだろう。


「そろそろ行くか」

まるで今日の目的はこれからだと言うように、先輩が立ち上がった。
ついに来たかとドキドキして、遅れて私も立ち上がる。

夜の街を繁華街の外れの方へと向かって歩く。

先輩の手には二人分の大きな荷物。
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