コクリバ 【完】
ひとしきり笑ったあと、先輩が私もろとも立ち上がり、手を引いて歩き出した。

「え?どこに行くんですか?」
「風呂」
「えっ?ちょ、ちょっと待ってください」
「なんだよ」

慌てて立ち止まって、繋がれていた手を引っ張ると、不機嫌そうに先輩が振り向いた。

「お風呂、先に入るんですか?」
「……あぁ」
「普通は、その……後なんじゃないんですか?」
「はぁ?」

思いっきり先輩の口が“あ”の形で固まっている。

「あの…終わった後に一緒に入って、いろんな話をするんじゃ……」
「……」

まるで違う言語を解読しようとしているかのように目を細め、首をかしげている。

「あの、一緒に入るのは恥ずかしいと思ってるんですが、そうするのも楽しいのかな…なんて……」
「……」

先輩の顔がより一層険しくなってしまった。

「あ、あの、違うんです。そうするのも楽しいって、一緒に入るってことじゃなくて、あのぅ、そうやって話することが、って言うか……」
「それどこからの情報?」
「え?」

先輩は私の声に被せるように聞いてきた。

「誰から聞いたんだよ、そんなこと」
「それは…その……」

失敗してしまった。
そんなこと言わない方がいいのに。

逃げようと一歩下がると腕を掴まれ、
「誰に教えられたんだよ」
明らかに機嫌が悪くなった先輩。

もう逃げられない―――そう悟った。
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