コクリバ 【完】
「……友達です」
言ってしまった。

「誰?」
なのに、それだけでは満足してくれないらしい。
何か誤解されてるかもと感じて、焦った私は、
「あの……菊池さんの……」

うっかり個人名を出してしまった。
しかも彼氏の方の……

「はぁ?雅人か?」

より一層睨まれて焦ってしまって、
「いえ、義人さんの方の……」
「菊池先輩の?」
「……彼女から聞きました」

―――白状してしまった。


一瞬の間の後、先輩はニヤリと左頬を上げ、声を出して笑い始めた。

私は、自分の保身のために友達を売ってしまった。

「他には?」

先輩が嬉しそうに聞いてくる。

「……え?」
「菊池先輩の手順、教えろよ」

私の腰に手を回し、逃がさないとでも言うように引き寄せる。

「知りません。これ以上は言えません」

先輩が私の顔を覗こうとするから、必死にその視線から逃げた。

「ふーん。おまえらそんな話してんの?」

嬉しそうに言われたその言葉がすっごく恥ずかしい。

「菊池先輩の彼女、知ってんの?」
「……はい。友達です」

言葉は慎重に選ばなきゃいけない。

「誰?」
「一緒にバスケの試合見に行きました。 その時、二人は出会ったんです。それで付き合うようになって……」

しまった。
また喋り過ぎたと気付いて、慌てて口を押えたけど、
「ふーん。あの時、おまえらそんなことしてたんだ」

先輩の左頬が上がっている。

「今日のことも言うの?」
「え?」
「俺の手順もネタにされんの?」

そう言って、先輩は妖艶に笑った。
その顔に見入ってしまいそうだったけど、なんとか首を横に振って、そんなことはしないと誓った。

先輩はフッと笑ったかと思うと、私の頭にポンと手を乗せて、一人でスタスタ歩き出した。

「どこに行くんですか?」

その背中に聞いてみる。

「風呂。
 俺は先派だ」

―――先に風呂に入る派―――

って、やっぱり初めてじゃないんじゃん!
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