コクリバ 【完】
高木先輩は、菊池家の次男・菊池雅人とお揃いの茶色のツナギを着て、作業場で車を洗っているようだった。
その姿がチラリと見えただけで、私の顔は緩んだ。
これが目的。
先輩のツナギ姿はカッコいい。
その辺のモデルよりも良い。
ユニフォーム姿とどちらか選べと言われたら、果てしなく迷う自信がある。
「奈々ちゃん。行こう」
ともちゃんに呼ばれて、私はしぶしぶ菊池自動車から道を挟んだ川沿いに建っている菊池家に移動した。
家の方でバーベキューをするらしく、私とともちゃんはおばちゃんについて食材の用意を手伝うように言われた。
菊池義人とうちの兄が、バーベキューの火起こしの準備をしている。
おじちゃんを含め、男3人はすでにビールを開けているようだった。
私は何かと理由をつけては庭に出て、菊池自動車の工場の方をチラ見していた。
それを兄が怪訝な表情で見ていたことには気付かないで。
「おい…」
ニヤニヤと工場の方を見ていた私は、兄に不機嫌そうな声で呼びかけられた。
「何してんだよ」
それは明らかに怒っている口調で。
「あ、そうだよね。私もおばちゃん手伝ってくるね」
ははは……と笑顔を作ってその場を立ち去ろうとすると、
「奈々。なんでここにいる?」
兄が、核心を衝いてきた。
その強い視線を背中に感じる。
「なんでって……付き添いだって……」
兄の方は見ないで答えた。
「……どっちだ」
兄に高木先輩を見に来たのがバレたんじゃないかと思っていたのに、不可解な質問をされたから思わず兄の方を向いてしまった。
「どっち…って?」
「雅人か?高木か?」
高木って言葉が耳に届いた途端、心臓がドキンと大きく打った。
「…あ……」
誤魔化さなくちゃいけないのに、ここは普通な態度で「なんのこと?」なんて言わなきゃいけないのに、
全く動けない―――
「……高木か…」
「んな…なんのこと?」
今更感満載だったのに、他の言葉も浮かばない。
それでも浮かれてる気持ちの方が勝っていて、笑顔は取り繕えていたのに……
「やめとけ……」
兄が私から視線を外し菊池家の整った芝生を見ながら、小さな声でそう言い放った。
その姿がチラリと見えただけで、私の顔は緩んだ。
これが目的。
先輩のツナギ姿はカッコいい。
その辺のモデルよりも良い。
ユニフォーム姿とどちらか選べと言われたら、果てしなく迷う自信がある。
「奈々ちゃん。行こう」
ともちゃんに呼ばれて、私はしぶしぶ菊池自動車から道を挟んだ川沿いに建っている菊池家に移動した。
家の方でバーベキューをするらしく、私とともちゃんはおばちゃんについて食材の用意を手伝うように言われた。
菊池義人とうちの兄が、バーベキューの火起こしの準備をしている。
おじちゃんを含め、男3人はすでにビールを開けているようだった。
私は何かと理由をつけては庭に出て、菊池自動車の工場の方をチラ見していた。
それを兄が怪訝な表情で見ていたことには気付かないで。
「おい…」
ニヤニヤと工場の方を見ていた私は、兄に不機嫌そうな声で呼びかけられた。
「何してんだよ」
それは明らかに怒っている口調で。
「あ、そうだよね。私もおばちゃん手伝ってくるね」
ははは……と笑顔を作ってその場を立ち去ろうとすると、
「奈々。なんでここにいる?」
兄が、核心を衝いてきた。
その強い視線を背中に感じる。
「なんでって……付き添いだって……」
兄の方は見ないで答えた。
「……どっちだ」
兄に高木先輩を見に来たのがバレたんじゃないかと思っていたのに、不可解な質問をされたから思わず兄の方を向いてしまった。
「どっち…って?」
「雅人か?高木か?」
高木って言葉が耳に届いた途端、心臓がドキンと大きく打った。
「…あ……」
誤魔化さなくちゃいけないのに、ここは普通な態度で「なんのこと?」なんて言わなきゃいけないのに、
全く動けない―――
「……高木か…」
「んな…なんのこと?」
今更感満載だったのに、他の言葉も浮かばない。
それでも浮かれてる気持ちの方が勝っていて、笑顔は取り繕えていたのに……
「やめとけ……」
兄が私から視線を外し菊池家の整った芝生を見ながら、小さな声でそう言い放った。